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異世界ファンタジー

水面の国 2

   

環の誘いを受け入れ、雅は冬休みを彼女の別荘で過ごすことに

広い私有地の中にある森の中を探索していると、どこかで見た風景が飛び込んでくる

欠落している雅の記憶が呼び戻される…

 

2章【凍る白い森の中で】

 
 
 
 吐息は白く、指先が凍ると感じるくらい冷たくなる。

 冬はこれからが真っ盛りだというのに、既に真冬並に体感している。

 こうなりだすと、テストも終り、後は少し長めの冬休みがやってくる。

 長めというのは、高校3年生にだけなのだが。実際年が明ければ受験到来。卒業試験まで殆どが自由登校となる。既に進路が決まってしまっている生徒は、冬休みと春休みをまとめて取っているようなものだった。

 雅は未だ進路を決め兼ねていた。進学にしろ就職にしろ、全て本人の意思を尊重するという家庭である。このまま何も決めなければ家を手伝うなり継ぐなり、そういう道もあるのだ。

 一難去ってまた一難かと、小さな溜息をこぼし、教室へと入ると背後から声をかけられた。

「雅様。あのお話ですけれど」

 環は少し言葉を潜め気味だった。

 あの話――期末テスト最終日の帰り、冬休みを一緒に過ごさないかと誘われた。

 環はこっちへ転校してくる際、親と約束をしている。卒業後は元の学校の大学へと入る。幼少から転校するまで、エスカレーター式の私立学校に通っていたのだ。

 その為、少し長い冬休みを別々に過ごせば、共通して過ごせる時間が少なくなる。雅と共にと願って追いかけてきていた環にとっては、かなり重要なことなのだろう。

 彼女の気持ち、わからないでもないし、むしろそういう好意は嬉しい。過ごせるものなら過ごしてあげたいとは思うのだが、雅の本家は神主で、この街唯一の神社を管理している。年末年始は何かとかきいれ時でもあった。

 特に慣わしの強いこの街では、異様なほどの拘りがある。自分の判断では決められないと、一度断りを入れたのだったが、せめてクリスマスが終わるまででいいから――と、強く熱望されていた。クリスマスまでなら断る理由はないが、一応やはり親には聞いてみないということで、暫し猶予をもらっていた。

 そのクリスマスまであと1週間ともなれば、環も急かさずにはいられなかったのだろう。

 明日はいよいよ終業式、半日よりも短くして用事は済んでしまう。事実上、明日から冬休みも同然のようなもの。学校帰りにそのまま向かえば、半日多く一緒にいられるのだった。

「あぁ、あの話ね。ごめんごめん」

 少し重い雰囲気の環とは反対に、雅は軽く答える。

「よかったですわ、覚えていてくださって」

 明るく答えた雅に釣られて、環に笑顔と安堵が広がる。どんな返事でも、覚えていてくれたことが何より嬉しかった。

「一応親には話してみたよ。『先方様にご迷惑かけんじゃないよ!』だって」

「では……」

「うん、お世話になります」

 軽く頭を下げながら言い、再び下げた頭を上げる。目の前の環の顔が見る見る内に笑顔に満ちていく。そんな環を見ているのは、雅にとっても嬉しい。

「ごめん。帰りに言おうと思っていたんだけど、気を遣わせた」

 環に重い空気は似合わない。そうさせてしまった自分に、嫌悪を感じないことはなかった。

「いいえ、いいえ雅様。もとはと言えば私の我ままですもの。気になさらないでください」

 互いが互いを気遣う。暖かい感情が流れ出して、それが少し恥ずかしくて、二人で顔を合わせて笑い出してしまった。

 

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