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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第26話 襲撃の予兆

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「ピクシスはもう私に言葉をかけてはくれない。優しいあの町医者は、もう二度とあの隠れ家で笑うことはないのだ」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、来たるべき時の為に。

 

 
 また会えると信じて、立ち上がった。ルイスと向き合った。それなのに、ピクシスはもう私に言葉をかけてはくれない。優しいあの町医者は、もう二度とあの隠れ家で笑うことはないのだ。
 遺体を無残に晒され、色を失い乾いた瞳。彼の変わり果てた姿を見て、皆は耐えられるだろうか。ルイスのように怒りに満ちた表情で、歯を食い縛るのだろうか。それとも私のように、自分自身の存在を恨み、彼に手を下した者の不幸を願うだろうか。

 ピクシスは、初めて私に会ったあの日、こう言ったのだ。『あなたと王子が生き延びて下さったことを嬉しく思っています。そして、感謝しております』と。私が生きていることを喜んでくれたのだ。そんな彼が自国の兵に殺されたなんて、今でも信じられない。

 もう、安らかに眠ってもらいたい。あの状態のまま、大衆の眼前に晒しておくだなんて酷すぎる。けれど、今私が手を出したら、見張っているかもしれないカーネット軍に見つかってしまう。そうなれば、命を危険に晒されるのは私だけではない。ルイスも臣下達も奴等に見つかり、そして捕まってしまうだろう。

 ――――それだけは避けなければならなかった。皆を生かす為に、そしてルイスの言った通り、ピクシスの命を無駄にしない為にも。

「レイシー、大丈夫かいっ?」
「大丈夫よっ」

 私の体の傷はほぼ癒えたとはいえ、こうして全速力で走るのは少し辛かった。骨が軋むような感覚がする。リハビリもろくにせず、部屋で泣き続けていたのだから、そうなってしまうのも無理はない。

 だが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。一刻も早く、彼等に――――プライン達にピクシスの件を伝えなければならない。首を晒すだけに留まらず、私とルイスがプランジットまで乗って来た車まで、見せつけるように置き去りにされていた。恐らく、私とルイスがこの町に隠れていることは敵に知られているのだろう。対面することになるかどうかは最早時間の問題だ。

「ここを曲がろうっ、その方が宿に近いっ」
「! 待って兄様!」

 道の角を曲がろうとしたルイスの手を掴み、減速させると、私は地面を指差した。

「“馬の蹄の跡があるわ”。カーネット軍がここを通った可能性が高い。別の道で行きましょうっ」
「…まずいな。宿の前で待ち伏せられているかもしれない」
「…………」

 ここまでの道を軍が通っているのだとしたら、その可能性もあるだろう。その場合、私達が宿まで辿り着くことは難しい。どうにか臣下の誰かと合流することが出来たらいいのに。

 私とルイスだけで逃げることは容易だろう。だがしかし、ピクシスという犠牲が生まれてしまった以上、臣下達の存在を無視して逃げることは出来なかった。
 

 

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