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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season16-6

   

 水桐は御影の姿が朝から見えないことに心配していた。大地も同じだったが、どういうわけか危機感のなにも感じてなさそうだった。

 午前中に浅野教祖と面通しがあるというのに。これでは作戦がはじまらない。

 昨夜、険悪なままで背をむけたことが、起因となっているのはいうまでもないことを水桐は思いだしていた。

 ひとり姿を消す理由にはなる。単独行動で調査をしているのかもしれない。

 窓のそとを見ると人が入りそうなほどの桶を御神輿の要領で信者四人かついで運んでいるのが見えた。

 五大信者の百瀬が先導して、対峙する水桐だった。桶の中に御影が隠されているのではないかと疑った。

 桶の中にいるわけはないが、探偵の直観が水桐をそこまで問い詰める。

 水桐の取り越し苦労だったことに反省した。ここまで取り乱すのにはアジトの雰囲気のなにかに作用されての探偵としての直観が鈍っているせいだ。

 大地に至っても危機回避が鈍感のように安堵している。

 御影の部屋で手掛かりがないか探るが、妙なことに感づいた。
 
 

 その日の昼。

 浅野教祖と数名は、台場の昼の情報番組に出演することになっていた。入信したての水桐たちもどういうわけか参加することになる。

 まさか、そこでおもわぬ事態の幕があがるとはこのときまだ思いもよらなかった。

 

 翌日。

「御影くんはどこに?」水桐は御影がいつまでも顔をみせないから直接部屋にいったが、いなかった。

「どうしたのかな?」大地が姿をみせた。

「御影くんがいない、どこにいったか見てないわよね?」

「うん、見てない。さっき五大信者の百瀬さんが午前中に教祖の浅野さんとの面通しがあるから待機しててっていってたけど…」

「そう、御影くんはさきに呼ばれたのかしら…」水桐は不穏な顔になった。

「とりあえずわたしたちも部屋にもどっていましょう」

「わたしたち以外にも数人の入信者がいるみたい」大地はどうでもいいことをいった。

「ふーん、大地ちゃんいろいろ情報得てるわね」

「うん」大地は微笑んだ。

 水桐はあまり見ないその笑顔に不安を抱いた。

 御影と昨夜険悪なままわかれたが、そのせいでなにかあったのかもしれない。

「そうだ、わたしたちの目的を見失っていたかもしれない。そのせいで、単独行動を…」水桐は察した。

 ふと窓のそとに視線が流れた。信者たちが大きな桶を御神輿の要領でかついで運んでいる。

 水桐はそれをじっと見つめていた。

「水桐さん、どうしたの?」大地は水桐の視線をたどった。「桶? あれがどうかしたの…」

 ざわざわと風が木の葉を揺るがすように不安を煽りはじめていた。水桐は取り返しのつかないことを昨夜してしまったのかもしれない。

 なぜ、御影を拒絶するような態度をとったのか、たしかこの建物に入ったとき、妙な香りがしていた。そのとき大地はうつろな顔をしていた。

 御影は五大信者のふたりと少し対話をしていたが、その背後で水桐と大地は黙ってついていた。その妙な香りは女の嗅覚から脳に影響をもたらす効果があるのかもしれない。

 安らぎと冷静を与える。そのため素の心が露出し、ほんらいの本性が醸し出す。

 水桐はわかった。「そうか、御影くんは緊張して浅い呼吸をする癖がある。だからその香りを吸引しなかった。だから平常心でいた。わたしと大地ちゃんは逆に緊張すると呼吸を深く吸って、安定させようとする。気持ちを落ち着かせるために。ミスったわ…、あの桶は、御影くんの棺桶?」

 水桐は唐突に走りだした。桶をかつぐ信者たちにおいついた。

「ちょっとすみません、その桶の中身を確認させてください」水桐の申し出に信者たちは戸惑った。

「すまんが、この中身は確認できんよ。蓋を開けるわけにはいかない」桶をかつぐ前列の男がいった。

「あなた…」百瀬が同行していた。「昨日いらしたかたですね。どういう用件でそのようなことを?」

「その桶の中身、ひとが入っているんじゃないんですか?」水桐の鋭い指摘はあきらかに百瀬の顔色を変えた。

 桶をかついでいる信者たちは動揺していた。桶の中身にひとが入っているなんて信じられない。

「どうなの?」水桐はなおも百瀬に問いただす。

「あなたはなにが目的なわけ、入信志望者なのではないの?」百瀬は反発した。

「そうだとしても仲間がいないのよ。どこいったかしらない?」

「それでも、この桶の中にいるって発想がおかしいわ。まるでわたしたちがそういうことをする集団といっているようね。どこかの評論家が指摘したように、預言したことはすべて実行犯がいると」百瀬の眼光が冷徹を放った。

 水桐は寒気を覚えた。これは分が悪い。桶をかつぐ男は御神輿の要領で前にふたり、後ろにふたり、そして百瀬がいて五名。水桐ひとりでこれらを打破することはできない。逃げるに逃げれない断崖絶壁にたたずむ水桐は逆に追い込まれていた。

「水桐さん」大地がそっと現れていた。

「なんで…」そう水桐は察した。大地がこんな危機感を感じる場所にくるはずがない。ということはいまはまだ窮地ではない。なにかこの場を打破できるということ。大地がいることがそれを証明している。

「心配ないわ、桶をみせてあげて」百瀬はいった。

 御神輿を地面に置いて蓋を開けた。すると、なかには野菜が入っていた。さまざまな野菜だった。野菜の下に隠れていないか、少し野菜をよけて確認までした水桐。呆然となった。勘がはずれた。しかしそれは探偵の勘ではない。

「ごめんなさい、昨夜からわたしの情緒が不安定になっていて…」水桐は自分の読みがはずれたことを詫びた。

「いいのよ、べつに…、過ちはだれにもある。それを許す者こそがこの浅野会の心意であるから」百瀬はいった。

 水桐は御神輿をする五名を見送った。大地の危機回避能力が発動していないのは、結局こうなる結末で許すという選択を与えられるからだった。

「水桐さん?」大地は心配そうにみていた。

「うん、だいじょうぶ。ちょっと、氷室さんたちに報告しましょう」

「それがダメみたい。こちらからの応答ができたとしても、返答がないの…」大地は御影と同様にすでに報告をしていた。「きっといまのこの会話とかも筒抜けではあるけど」

「電波が制御されている」水桐はいった。「それは困ったわね。御影くんも心配だけど、わたしたちここからもう逃げだせないかもね」

 

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