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ショート・ショート

死者たま

   

 透明な壁の先に好きだった人が見えるのに、話すことも触れることもできない。真後ろは真っ黒な世界。ここはどこだろう。

 

 
 目の前には、教室で友だちと話している君の笑顔が見える。手を伸ばせば届く距離。けれどいくら勢いよく精一杯伸ばしたところで、触れることはできない。透明な壁が立てられていた。何度強く叩いても、何度助走をつけて体あたりをしても、壁はびくともしない。

 壁がどのくらいの大きさで、どのくらいの厚さなのかは見当もつかなかった。そもそも壁の透明度は、窓ガラス以上だった。存在が空気と同化しているようなのだ。だから実際に触ってみるまで、そこに壁があるとは思えない。材質もよくわからなかった。ガラスではない。紙でもない。木でもレンガでもない。

 君は壁の向こうで学校生活を謳歌していた。授業中は教科書を盾にして机に突っ伏す姿も、おいしそうにお弁当を頬張る姿も、見慣れた君だ。たぶん今君の名を呼べば、笑顔で振り向いてくれる。太陽よりもまぶしい笑顔で、僕の目を細めさせるんだ。声も壁の前では届かないのだから、笑顔を向けてもらおうにも無理なことだが。

 どうにかして壁を破らなければならない。振り返ると、背後には真っ黒な世界が広がっていた。先が見えない。強く手を握りしめて、壁を殴った。何も起こらない。あたったときの衝撃音さえしない。けれど拳に痛みが返ってくる。
 もう一発叩きこんでも変わらなかった。ただただ返ってくる痛みだけが、そこに壁があることを主張している。舌打ちをする。壊そうと試みて、壁の向こうでは三回ほど夜を迎えている。

 日づけはわからない。学校に行っているのだから、平日だろう。
 

 

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