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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第28話 塗れて消えるもの

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「カーネットの王国兵は、最早人間ではないのだ」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、来たるべき時の為に。

 

***

「プライン、ルドウ達はどこにいるのっ?」
「整備士の元です」
「? 整備士…?」
「両殿下をこの町から外へ無事に送り届けるには、まず敵の馬よりも早い車が必要になります。ルドウ達はその整備士の元に隠してある車を取りに行っているのですよ」
「それじゃあ、その整備士の方って…」
「ええ、そうです。彼もまた、王子に仕える者の一人です。万が一の時の為、その者の工場に忍ばせておりました」
「…懐かしいな。ここに来てまだ一度も会っていない」
「王子と姫の近状は逐一知らせておりましたから、ある程度の状況は把握しているはずです」

 隠れ家を何らかの理由で封鎖した場合、そこにある車や武器は使えない。だから、宿の外に必要なものを隠しておいたのだろう。こうなることを想定して、日頃この町で生きてきた彼等は、確かにカーネット兵と戦える力を持っている。頼もしいが、それと共に危うくも感じた。

 彼等は、私達を守る術は知っていても、自分達の身を守る術は持ち合わせていないのではないだろうか――――。

「着きました。ここです」

 路地から出ると、小さな小屋が現れた。錆びれた看板には、掠れた字で『整備のエドガー』と書かれている。だが、店が営業している気配は全くなく、中に人がいるのかも怪しかった。廃屋と見間違えるほど錆びれたこの店に、本当に車があるのだろうか。
 だが、そんな私の心配をよそに、プラインは迷わずその戸を叩く。普通に叩いたのではない。かつてルイスが私を連れて、初めて隠れ家へ訪れた際にも、同じようなリズムで戸を叩いていた。これが合図の役割を果たしているのかもしれない。

 少ししてから、僅かに戸が開いた。だが、完全に鍵が外されたわけではないらしい。プラインは背負っていた剣をその隙間に差し込んだ。まるで、通行証のように。

「名乗れ」
「プライン・カルレットです」
「おお! オールの女房か! 久しいな!」
「エドガー殿もお変わりないようで何よりですわ」

 先程までの警戒した態度とは裏腹に、扉の向こうからは軽快な声が聞こえた。それは少しばかり、しゃがれている。プラインが扉を開いて、私達に笑顔を向けた。

「どうぞ、お入り下さい」

 躊躇いなく足を踏み入れたルイスに続き、私も中へ入る。背後でプラインが扉を閉めて、鍵をかけた。

 外の景観とは違い、整えられた室内の中央で、一人の老人が杖を持ち、立っていた。白髪を束ねた後ろ髪が、部屋の明かりに反射して透ける。彼は、ゆっくりと私達に頭を下げた。

「ルイス様。ご立派になられましたな。一段と、その瞳に宿る志が輝いてございます」
 

 

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