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ハートフル

大切な人

   2016年11月18日  

 
私が澄子さんに好きな人がいることを知ったのは、それから間もなくのことです。

その日、大学から帰る途中、新宿駅の近くの交差点で澄子さんを見つけました。

手を振って知らせようとした時、彼女は別の方向に向かって小さく手を挙げていました。相手は40歳くらいのスーツ姿のメガネを掛けた男性です。
信号が変わると、澄子さんはその男性に駆け寄り、二人で手を繋いで歌舞伎町方向に歩いていってしまいました。

  恋人か・・

彼女は自分よりずっと年上、好きだとか、そんなことは考えたこともありませんでしたが、心の奥底には「澄子さんは僕だけのもの」という意識があったのだとおもいます。

その晩、私は一睡もせずに澄子さんの部屋のドアが開くのをずっと待っていましたが、彼女は帰ってきませんでした。

私は大切な人を取られてしまったショックから、翌日、大学に行けませんでした。

それからというもの、私はなんとなく顔を合わせるのが嫌で、少しずつ澄子さんを避けるようになりました。澄子さんもその男性とのお付き合いが増えたのでしょう、「一緒にご飯食べよう!」という電話もだんだん無くなっていきました。

童貞を卒業したのもそんな頃でした。

こう言ってはなんですが、私は澄子さんに勝手に義理立てしていたのです。「イヤらしいところに行ったら嫌われる」、そう思っていましたが、もうそのような義理立てをする必要が無くなりました。
 

 

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