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エリカの花言葉 第5話 トリカブト《復讐》 1

   

 片山美奈子が殺害される事件が起きた。洋平と弘行は、犯人を少年院から出所した恵里香の兄だと思い恵里香を守ろうとするが、兄は福岡で働いている為に片山美奈子の殺人事件とは無関係だと知らされる。
 しかし、その答には疑問が払拭されない二人は、恵里香の兄が犯人であることを突き詰めようとしていた。

 

「えぇ、はい、そうですか。宜しくお願いします」
 恵里香の母は電話を切ると、虚脱したように座り込み、大きな溜息を吐いた。
「お母さん、大丈夫?」
 物陰から様子を伺っていた恵里香が声を掛けると、母は茫然とした表情を見せる。
 恵里香がコップに汲んだ水を差し渡すと、母は喉ごしを苦しそうにしながら、ゆっくりと水を飲み込んだ。
 ここ何日も食事を取らなかった喉に水が流れ込むと、痩せた首には小さな胡桃を飲み込んだような喉仏が、ゆっくりとした動きを見せる。
「誰から電話だったの? お兄ちゃんのこと?」
 恵里香が問い掛けると、母は、「保護司の人からでね、あの子、福岡で真面目に働いているって」と答えた。
「そう…… 良かった」
 兄が出所したと連絡があった日から、身を潜めるようにして暮らす母の姿を見ているのは、恵里香も気が休まらぬ日々が続いている。

 恵里香が菖蒲町に越してくる前に暮らしていた場所は、福岡県でも市内のようなビルが立ち並ぶ都市ではなく、東部の自然に囲まれた村。
 恵里香は生まれてから十歳までを東京で暮らしていたが、とあるテレビコマーシャルの出演を機に子役として一躍有名人になると、その人気は街をあるけば物凄まじい人だかりができるほどになつた。
 この環境では母娘共々が気も休まらぬ生活が続くと感じた恵里香の父は、せめて日常の生活は人目に付かぬ場所で温和に暮らせるように考えると、自分の故郷である村に家を建てて暮らしを始めた。
 自宅の周りは山と自然に囲まれていて、近所の家と言っても、自宅から一キロメートルほど離れた場所。
 毎日の買い物も車で市内へ行くしかないほどに辺鄙な場所であるが、都会の生活に疲れていた杉浦家には長閑で暮らしやすい場所であった。
 引っ越してからの父は農業を営んでいて、野菜のような農作物の他、花の栽培も行っていた。その仕事が大きな収入となるわけではないが、この村で暮らすには困るほどでもなく、ドラマの出演などで得る恵里香の報酬だけでも多額なもの。
 家族の生活をその報酬に頼ることは無いが、恵里香自身が高校、大学と、自立して通うには余るほどであった。
 兄が市内の高校へ進学して一人暮らしを始めると、家族三人で温和な暮らしをしていたこの場所で二年前の事件は起きた。
 その事件を起こした恵里香の兄が、少年院から出てきて一ヶ月。今は福岡市内の和食料理店に住み込みで働いている。

 

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