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エリカの花言葉 第5話 トリカブト《復讐》 1

   

「あの子の兄さん、福岡の仕事場から逃げ出して行方不明なんだって。多分、母親を探しているんだよ。私は、それをエリカに知らせたかっただけ」
 美奈子の言葉を童話で例えるなら、小麦粉を足に塗った狼の言葉に聞こえるが、母山羊からの忠告にも思える。すると三人は、頭の中が留守番中の子山羊達のように慌て騒ぐ。
「おい、杉浦のやつ、危ないんじゃねぇか」裕太が呟くと、「あの子はきっと大丈夫よ、探しているのは母親だから」と美奈子は話す。
「元々、お父さんを殺すつもりじゃなかったのよ。あの週刊誌に書かれていた、『紫陽花の涙』を現実化しようなんて話は嘘よ。彼は初めから実の親である、お母さんに恨みがあったのよ」
 それから美奈子が話したことは、『紫陽花の涙』に隠された裏話であった。

 テレビで放送されていた『紫陽花の涙』は当初のストーリーとは違うもので、後から書き直された脚本であった。
 本来の内容は、ある子連れ同士で再婚した夫婦には、父方に兄となる息子、母方には妹となる娘がいたのだが、二人は兄妹の気持ちにはなれずに、互いの間には愛が芽生えた。
 ある日、妹が父に性行為を求められていたのを知った兄は、その恨みから父を殺してしまう。それが当初のストーリーであったが、当時そのストーリーを具現化するような事件が現実に起きたことから、スポンサー企業が離れてしまい、放送は見合わせることになった。そのドラマのヒロインである妹役が美奈子の予定であった。

「それが、何で、エリカが主役になったの?」
 美奈子は奥歯を噛み締めながら、きつい顔を見せると、「あの子の母親が仕立てたのよ」と、私怨を込めているような低い声で話す。
 続けて美奈子は、後のストーリーになった訳を話した。
 旧ストーリーの『紫陽花の涙』はスポンサーが離れる反面、打ち切りを批判するスポンサーもいることで制作側は頭を悩ませていた。
『紫陽花の涙』を書いた脚本家は、恵里香を主演にした作品を数作手掛けたことがある人物で、恵里香の母とも面識があった。
 すると恵里香の母が脚本家に恵里香を主演として脚本を書き直してほしいと持ち掛けたことで、後の紫陽花の涙が生まれた。その題材が恵里香の家庭環境であった。
 美奈子としては初ヒロインのドラマであったことだから、その口惜しさは悔やみきれないものである。
 その後、美奈子は自嘲的な文章をSNSサイトに書き込んでいた恵里香の兄をサイト上で見つけると、そこにメッセージを送り続けた。
『あなたの卑屈は、親の金儲けの餌にすぎない』
『あなたの母は、娘の為に、その卑屈を餌にした』
 その文章を見て逆撫でされた兄の怒りが、あの事件を起こしたのだ。

 

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