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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第29話 私の愛した世界

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「私がルイスにそんなことを言わせてしまっているのね」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、来たるべき時の為に。

 

 
 ――――私はまた救えなかった。居場所を守れなかった。

 目の前で固まった人々の体を見つめて、手を伸ばす。花壇に精一杯伸ばされた手を、私は掴み取るようにして握った。その瞬間に目を見開く。――――まだ、弱弱しいながらも温もりが残っていたから。

「まだ、まだこんなに」

 暖かいのに、それなのに、彼等の体の下に広がる赤黒い血を見る度に、現実に引き戻される。どんなに温もりが残っていようと、見開かれた目に色はない。

 広場で鎖を繋がれていたプランジットの住人達は、皆その命を奪われていた。カーネット兵の手によって、無残に命を絶たれたのだ。

「どうして、奪うの…どうして、どうして」

 私が逃げる度に、その後を追うかのように無実の人が殺されていく。私の足跡を踏み潰すかのように、残虐に。全て、私がかつていた場所の兵士のした行いだ。誇り高いカーネット王国のすることではない。
 ここまでしなければならないほど、私とルイスの存在が邪魔なのだろうか。叔父様にとって、民の命はこれほどまでに軽いものなのか。ならば、彼はしきたり以前に人として王に向かない。王になっていい人間ではない。

 守るべき者達を殺すことに、一体何の意味がある。プランジットの優しい住人達を守れずして、何が姫だ。何が王族だ。

「間に合うはずだったの。だって、まだ…数分しか経っていないのよ…」

 ――――私は、信じていたのだ。あれほど絶望に塗れた世界の中で、馬鹿みたいにまだ信じていた。カーネット王国のことを。お祖父様が守り続けてきた王国のことを。たとえそれが叔父様の命令だったのだとしても、王国兵はいつか必ず私とルイスを救いだしてくれるとそう思っていた。意味もなく民の命を奪うほど、残酷な国じゃないと信じていたかったのに。

 ――――けれど、それは間違いだった。
 ――――間に合わなかったから。救えなかったから。守れなかったから。もう、どうすることも出来ない。私の信じた世界は、存在しなかった。

「どうしたらいいの…どうしてこんな…」

 もう、涙も流れなかった。心が、叫びながら涙を枯らしていく。止めどない怒りと絶望で満ちていく。

「嫌、嫌だよッ、もうやめてぇぇえええッ!!!」

 耐えられない。これ以上の死は受け入れられない。そう叫んだ私の視界を、背後から誰かが塞いだ。そして、そのまま抱き締められる。

「エリザ」

 ルイス――――。

「ねえ、どうして…? この人達が一体何をしたと言うの。私は一体、どうしたらよかったのかな」

 ルイスの手が、私の眼前に広がっていた悪夢を遮った。だが、視界に映らなくても、もう脳裏に焼きついてしまっている。
 
 私とルイスがこれからも傍にい続けたら、また、誰かの命が失われるのだろうか。
 

 

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