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俺が残せるもの

   

 泣き腫らした大和。
 翌日やはり目は腫れあがったままだった。
 家族は大和の心情を理解したうえで、慰めなどの声はかけずに腫れあがった眼を笑い飛ばした。

 そして、ランチタイム前にピアノフォルテに出勤して。
 大和の顔に皆驚き、彼からの告白にまた驚き、そして和彩の言葉に大和さえも驚いてしまった。

 

 
 翌日。
 いつ寝たのかはわからなかった。
 知らぬ間に寝ていて、携帯を枕と耳の間に挟んだまま寝ていたようだ。
 広明と話していたことは覚えているが、大泣きしてしまってそれから先のことが思い出せない。
 いい大人になって泣き疲れて寝てしまったことを、恥ずかしながら思い知った。
「いってぇ…。」
 ひどい頭痛がする。
 目も痛い。
 よっこらせとゆっくり体を起こして、やっとの思いでベッドの上に座った。
 瞼の重さからして、おそらく目が腫れている。
 その想像は容易にできるわけだが、男の部屋に鏡なんてしゃれたものはない。
 美意識の“び”の字すらない、ようやく人が生活できるような散らかり具合の大和の部屋と彼の性格ならば鏡なんて一生部屋にはおかないだろう。
 見るからに絵に描いたような“男の部屋”なわけで、大体部屋に入ると自分でも“なんて汚い部屋なわけ”とげんなりしてしてしまう。
 洗面所にある鏡を見に行くにも、家族にこの顔を平気でさらす勇気は持ち合わせていない。
「よし。」
 部屋には自分しかいないのだ。

 ──自撮りしよ。

 生まれて初めての自撮りが、彼女とのツーショットなわけでもなく、格好よくキメているわけでもない。
 やれやれと携帯で自分の顔を撮影した。
 無表情だっていいし、誰かに見せることもない。
 なのに、なぜシャッターを切る瞬間にうっすらと笑ってしまったのだろうか。
「…最強クラスにキモイな、俺。」
 目が腫れている上にぎこちなく微笑んでしまった代償は、想像以上の酷さだった。
 とりあえず自分の目が相当腫れているのだけはわかる。
 どうにかしたいが、氷を取りに台所に出向くわけにもいかない。
「仕方ない。」
 大和はまた寝転んで、枕元にある小さなテーブルの引き出しに手を突っ込んだ。
 そこから出てきたのは、熱さましのシートだった。

 ──痛いよな、絶対。

 もともと目に貼るためのものではない。
 しかしあまりにも不細工すぎて、このまま職場に行こうという気にもなれない。
「よし!」
 男、神大和。
 ここは一発気合を入れて、熱さましのシートを手に取った。
 ふぅっと小さく息をついて、透明なシートをはぎ、シートを目の上に乗せた。
「~~~っ!!!!」
 声はおろか息すらできなかった。
 悶絶に次ぐ悶絶である。
 ここで確認しなければならないが、良い子もよい大人も絶対にまねしてはならない行為なのだ。
 数分と持たずにシートを目から引きはがし、ペシーン!!とゴミ箱にそれを投げつけた。
 もう二度とやらん!と内心誓って、少し窓を開けて冬の風に目の痛みを預けた。

 ──俺にはいったい何が残せるんだろう…。

 立ち去る身として。
 何かしらレストランに貢献したい。
 しかし、自分なんかに何ができるかがわからずにいる。
 想像以上に冷たい外の風に、少し肌寒くなった時だった。
「あ、」
 雪が舞ってきた。
 冷たい雪が、大和のまぶたにそっと舞い降りた。

 ──もうあんまり時間がない…。

 今月いっぱいで辞めなければならない。
 そう思えば思うほどに、思考回路が凍っていく。
 
 
 

 

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