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立ち枯れ 9

   

幸恵を奪おうとする、憎い悟を罠にかけ、陥れた柏木は、数日後、釈放されたという悟と再会する。
そして……

 

「公務執行妨害だよ、逮捕すると言ったら逃げようと暴れた、威嚇さ、ただの脅しだ」
「……」
「だがまあ相手は健康な若者だし、俺では逆にやられていたかもしれない、キミが来てくれて助かったよ柴崎くん、ありがとう、やはり俺が見込んだだけはある」
「え、いやそんな……」
 少し褒めてやると、柴崎は照れたのか、語尾を濁した。やはりバカは扱いやすい。世辞や上っ面だけの言葉を直ぐに信じてしまうところがいい。それがなければ柴崎などただの間抜けで愚鈍な役立たずだ。
 だが素直に従うならそれはそれで可愛い部下だ。
「この男は……」
「ああそうだ、以前キミに洗っておけと言っておいた宮田悟だよ、怪しいと思ってたんだ、とうとう尻尾を捕まえられた、これも柴崎くんの下調べのお陰だな、本当にキミは役にたつ」
「あ、ありがとうございます、でもなにをしたんです? こいつ」
「覚醒剤取締法違反、それに公務執行妨害だ、連れて行け」
「ァ、はい」
 柏木が指示を出すと、柴崎は、冤罪だ、なにかの間違いだと叫ぶ悟を引き立て、覆面パトカーの中へ押し込んだ。
「柏木さんは?」
 悟を車に乗せ、自分も運転席へ乗り込もうとしながら柴崎が聞くと、両手を杖の頭に乗せた柏木は、少し待っていろと答えた。柴崎は小さく頷き、車に乗り込んでドアを固く閉ざす。それを目で確認してから、柏木はゆっくりと幸恵に振り返った。
「幸恵……今日のことは大目に見てやる、キミも少し動転していたんだろう、気にしなくていい」
「柏木さん……」
 逮捕された悟がパトカーに乗せられてしまったことで幸恵も勢いが抜けたのだろう、疲れた表情で顔を上げた。柏木は愛しい幸恵の頬に右掌を当て、なにか確かめるように、そっと撫でる。
 幸恵の頬は冷たかった。赤い口紅がこびり付いている唇が、青白く色あせて見えるのが憐れで、なお更に愛おしく感じる。
「あとで電話しよう、それまでお腹を大事にするんだ、酒ももう飲むんじゃない、いいな?」
 愚かな女だが仕方がない、自分はこの女を愛しているのだ。
 もういい、彼女が望むまま、幸せをやろう。
 結婚して、一緒に住んで、二人で子供を育てていこう。それも悪くないはずだ。
 そう決心した柏木は、だが甘い顔はみせてやらなかった。女は浅はかだ。ちょっと優しくしてやるとすぐ付け上がる。幸恵をそこいらに転がっているバカ女のようにはしたくない。身のほどだけは弁えてもらわねば困る。身のほどを弁え、慎ましく傅くなら、大事にしてやる。
 自分の導き出した結論に満足した柏木は、言葉もなく佇む幸恵に背を向けて、パトカーへ乗り込む。
 柏木と悟の乗ったパトカーが、真夜中の迷宮に走り去るのを、幸恵は呆然と見送っていた。
 
 

 

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