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エリカの花言葉 第5話 トリカブト《復讐》 4

   

 片山美奈子が殺害される事件が起きた。洋平と弘行は、犯人を少年院から出所した恵里香の兄だと思い恵里香を守ろうとするが、兄は福岡で働いている為に片山美奈子の殺人事件とは無関係だと知らされる。
 しかし、その答には疑問が払拭されない二人は、恵里香の兄が犯人であることを突き詰めようとしていた。

 

 しかし、追い駆けた亮治とは出会うことなく弘行は獣のように走りながら自宅に辿り着くと、切らした呼吸を落ち着かせる間もなくドアノブを引いた。鍵の掛かった感触はないドアを開く勢いが、弘行の心境を表している。
 部屋では父が寝そべりながら、再放送のドラマを見ているのか、眺めているだけなのか分からぬほどくつろいでいて、それを跨ぐと、「あほんだらぁ!親を跨ぐ馬鹿がおるかぁ!」と大声が狭い部屋に響く。
 そんな大声も聞こえぬように弘行は、小さな収納ケースの引き出しからバタフライナイフを取り出してポケットに仕舞うと、昇りきらぬ太陽の陽ざしがそれをちらつかせたのだけを父は見逃していなかった。
「なんや、素手じゃ勝てんのか……情けないのぉ」
 父の言葉が弘行の動きを止めると、駆け巡る血の流れが突然に弱まる。いつもなら苛立つような言葉でもあるが、今はその感情を抑える唯一の人間であることに体が反応した様子。
「なぁ、もし、俺が人を殺したらどうする?」
 弘行の言葉を聞いても驚いている様子もなく、背を向けて寝そべったままの父は、「帰ってくるな」と言い放つ。
 あぁ、きっとこの人は、まだ一三歳の子供が何を言っているんだくらいに思っているのだろう。
 そう考えると緩やかになった血が、また少しずつ流れを早める。
「ニュースでやっとったぞ、川で死んどったの、この前のヒョロッこい坊主じゃろ。ほんなら帰れる程度にやり返してこい」
 若い時からあちこちを転々と住み移っていた父の入り交じる方言は、故郷のない人間のようでありいつもは聞き苦しいが、今日はその言葉を聞くと何故か背中を押されたように聞こえる。
「自分で帰ってくるから、何かあっても迎えに来なくていいから」
 普通の親は驚きだしそうな言葉だが、微動だせぬ父の姿は子供の将来を考えることもなければ、親の体裁も考えてない様子。
 弘行は横に向いた父の背中を見届けながら、静かにドアを開けて家を出た。

 

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