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ダストドール第10話VS片名

   

世は再びプロレスブーム。

防衛戦のゴング直前に坂が姿を現わし、坂のマイクパフォーマンスによって観客の不満が爆発する。しかし、凡内達は、チャンピオンならではの最高の試合を展開する。

 

タイトル戦が行われる前日、凡内は大郷の好物であるウイスキーを片手に大郷宅を訪ねた。

「急にどうしたんだ?」

「いや、ちょっと話がしたかっただけです。急にすいません」

凡内は、片名と戦って感じたことを話した。平賀のこと、片名の実力。そして、二人の関係。

「そうだ。片名と平賀というレスラーは、元々はマークプロレスとは関係のないレスラーなんだ」

「前の団体はクビにでもなったんじゃないですか?」

「…ああ、おそらくそうだろう」

大郷は、たった一度リングの上で戦ったというだけで、まるで全てのことを知ってしまったかのような凡内に驚いた。

「彼らは私もよく知っているレスラーの弟子で、二人は元々マスクマンだった」

マークプロレスではない団体で、マスクマンとして戦っていた二人。しかし、平賀は度々リングの上で問題を起こしていた。

「平賀さんのことは言わなくてもわかります。そういうことなんでしょう?」

「ああ。凡内君が感じた通りだ。そうだな…彼は少し…ほんの少しだけ、頭が悪い」

やはりそうかと、凡内は思った。そして、片名のことも、凡内には手に取るようにわかった。

「きっと弟子の頃から、二人はずっと一緒だったんでしょうね」

「そうだ。片名は実力もあり、マスクマンの頃は人気もあった。だが、平賀が別の団体に移ると、片名もずっと一緒に移っているみたいだ」

凡内は、軽沢のデビュー戦を思い出していた。それは先輩、兄弟子の責任。凡内には、片名の気持ちが痛いほど伝わってきていた。

「彼らの師匠と私は知り合いでね。一度だけ、彼と話したことがあった」

数年前、団体を渡り歩く片名に大郷は言った。それだけの実力があれば、どの団体でも踏みとどまっていれば、一年もしないうちに大きなチャンスが訪れると。

「君が出て行く理由はないだろう。君だけでも今の団体に残るべきじゃないか?きっと、チャンピオンになるのも夢ではない」

しかし、片名は団体に残ろうとはせず、

「いいんです。盗めるものは全て盗んでいますから」

と、答えたという。大郷は惜しいと思った。レスラーとしての強さだけでなく、その心構えと思考を持つ者は、そうはいないからだ。

「タイトル戦、やりにくいのか?」

大郷は凡内に尋ねた。

「まさか。むしろ燃えてますよ。僕が築きたいのは長期政権ではありませんから」

凡内は静かにそう言った。そして、テーブルの置かれるスポーツ新聞の記事に目をやる。

『ザコを相手に防衛して俺から逃げ回ってるのか』

新聞の一面を飾るのは、超日本プロレスの坂が、龍日本タッグチャンピオンである凡内と細岡に残したコメント。坂だけでなく、今回の防衛戦に疑問を持つファンは多く存在していた。一回目と二回目の防衛戦は、数多くのファンが認めるタッグレスラーであったが、今回の対戦相手はほぼ無名であるからだ。それだけでなく、今回の対戦相手を指名したのが、チャンピオンである凡内と細岡であったからだ。

「どいつもこいつもうるさいんですよ。コアな奴らにはわかるんです」

凡内はそう言うと新聞を破き捨て、多くのファンを敵にすることをまるで喜ぶかのように、今回の試合に燃えていた。

 

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