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SF・ファンタジー・ホラー

幻儚奇譚<5> 黄色い消しゴム

   

 黄色は危険を明示する色です。
 これは危ないよ、と警告をしているのです。
 危険だけなら、まだ、増しな方です。
 その黄色は、ひょっとしたら、幻儚の世界につながっているかもしれません。

 

 石岡和政は、5階でエレベータを降りた。
 真っ直ぐに廊下が延び、両側に教授室が並んでいる。
 石岡和政は、緊張した。
 医学部3年生の石岡和政にとっては、医学部教授とは、神にも等しい存在なのだ。
 各部屋の名札を見ながら、廊下を進む。
 廊下の中程に、大脳生理学教授日比野、という名札を見つけた。
 緊張したままノックをする。
 低い声の返事があった。
「どうぞ」
「あ、あのう、3年生の石岡です。呼び出しの掲示を見たのですが……」
「うむ。こっちへ来たまえ」
 日比野教授は、石岡和政を、自分の前に立たせたまま、睨め付けた。
 日比野教授は、痩せており、精悍な風貌をしている。
 誰も近寄らせない、といった雰囲気を漂わせているのだ。
 なにしろ、学生の間では、日比野教授は生まれてから笑ったことがない、という伝説が囁かれている。
 眼光も鋭い。
 石岡和政は、その鋭い眼に射られて、すくみ上がった。
 蛇に睨まれた蛙である。
「呼び出した理由だが、君、カンニングしなかったかね?」
「え?」
「生理学特論の試験の時だ」
「……」
「君の答案が、渡辺君の答案と非常に似ている」
「……」
「特に、問5。これは、最新理論を元にした応用問題だ。出来なくて当然なのに、君は、正解を書いている」
「そ、そのう……」
「この問題が出来たのは、渡辺君と君だけ。渡辺君は、あのように秀才だから納得がゆくが、君は……」

 

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