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ダストドール第3話VS大郷

   

世は再びプロレスブーム。

大郷は五十半ばの大ベテランレスラー。年齢が倍近く離れているにも関わらず、凡内と大郷はなぜこうも気が合うのか。そんな二人の関係には、単純なわけがあった。

 

大郷は生真面目で、昔ながらの性格と考えの持ち主であり、他人にも自分にも厳しい男。彼に弟子がいないのは、近い世代に芦田というスターがいたからというだけではなく、その厳しさを若手達が避けていたからかもしれない。

「大郷君は…そうですね。泥臭い職人レスラー」

「なぜ、大先輩の大郷選手を、たまに君付けで呼ぶのですか?」

「師匠は…まぁ師匠というか、友達みたいなものですからね」

他の若手が凡内と同じような発言を記者達の前ですれば、呼び出しを食らうのはまず間違いない。では、なぜそのような発言をすることが許されているのか。

「彼は頭が良く、プロレス理解度というより、人間の理解度が非常に高い。私みたいな男を上手く扱い、良いところを引き出し、悪いところはしっかりとカバーしてくれている。それを人に見せないところがクレバーだ」

ある日、凡内と大郷がタッグを組んだ試合の後、大郷はパートナーである凡内を褒め称えた。すると、

「えーと、はい。今の大郷君の発言に、嘘や偽りはございません。全くその通りですよ。アッハッハッ」

と、凡内はおちゃらけた発言を返し、二人はカメラの前で仲良く笑った。なぜここまで二人の仲が良いのか。その真相は、伝説のラッキーラリアットの時にあった。

あの試合で勝利した凡内であったが、ファンの間では、八百長説を唱えるものも少なくはなかった。ラッキーラリアットとは、まるで凡内の実力を否定するかのような言葉でもあり、凡内は苦悩していた。また、プロレスを汚した者となった凡内は、団体の中にも居場所がなかった。そんな中で、大郷は凡内に言った。

「ラッキーでもなんでもない。他の奴にあんな真似ができたというのか?この団体で、あのリングに上がる度胸と実力を持っている奴がどこにいる?何も気にするな。胸を張っていろ」

凡内は、大郷というベテランにそう言われたことが救いだった。凡内はてっきり、大郷にも芦田と同じように否定されると思っていた。

「なんでこんな僕なんかに、そんな言葉をかけてくれるんですか」

「凡内君が何年経っても大浴場の掃除をしていることを俺は知っている。俺は凡内君の心の実力も、把握しているつもりだ」

二人は、たった数回の会話で心が繋がった。芦田に反発していたこともあり、凡内には師匠と呼べる存在がなかったが、凡内はそのたった数回の会話で、大郷を師匠と呼ぶに相応しいと確信した。
そして、凡内の悪ふざけの発言に大郷が怒らない理由。そのことについて大郷は、

「私みたいな男からも、しっかりと受け継いでくれているから、何も言うことはない」

と、話した。ファンだけでなく、記者達の前での丁寧な対応、礼儀。後輩に対しての態度、時には付人の分の弁当を持ち、後輩を呼び捨てすることなく、君付けで呼ぶ。凡内は、師匠に恥じない弟子にしっかりとなっているのであった。

 

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