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ラブストーリー

In the rain 5

   

レッスンに顔を出した啓介。使えない左手を、花音が補い、初めて二人で音を奏でた。
途中、互いが音を合わせようとし、合わさった音は、あの雨の日に聞く癒しの音に変わった。
ただ、生徒として接した啓介だったが、側に花音が居れば、どうしても女として、感情が乱れてくる。

花音に触れたいと願う啓介だったが・・・。

 

 流れる涙も渇きを見せた頃、花音の手が啓介の胸を優しく押し返した。
「今日、レッスン・・・する?」
 はにかみながらそう聞いてきた花音に、啓介は「する」とコツンと頭をぶつけた。
「じゃ、・・・夜来るから。」
「ん・・・。」
 花音に回していた腕を静かに離して、ドアノブに手を掛けた啓介は、まだ俯き加減だった花音を覗き込んだ。
「じゃね、花音。」
 そう笑って、玄関を出て行った。
 初めて呼ばれた名前に、胸を擽られる。変に緩んでくる顔を両手で挟み、玄関を離れた。
 掃除を始めようと掃除機を出したのだが、まだ胸の奥が熱い。コードを出す事もせず、さっきまでの啓介の顔を思い出して、言われた言葉を頭の中で繰り返す。
 何とも言い難い、嬉しい気持ち。それが花音の心を、雨上がりの朝のような、清々しい気持ちにさせていった。

「もっと、気持ち出してみな?・・・そう、もっと!」
 午後になって、生徒達がレッスンに来ていた。花音の言葉に、生徒は弾きながら釣られていく。
 弾き終えてから、はぁーっと息を吐いた生徒に、花音の笑いが響いた。
「これぐらいで疲れてたら駄目でしょ~?コンクール出たいんでしょ?」
 生徒の楽譜のページを戻しながら、顔を覗き込む。すると、苦笑しながら生徒が髪を掻き上げた。
「だって先生、チョー元気じゃない?今日。何かあった?」
「別に、何もないよ?だって、靖子ちゃんが、このあいだコンクール出てみたいなんて言うから、それなりにねぇ。」
「えー・・・やっぱやめるー。死ぬってマジ。」
「根性ないな~。」
 笑いながら「もう一度」と、花音の指が最初のページを指して、生徒は長い息を吐いてから鍵盤に手を乗せた。

「はい、今日はおっけー。・・・で、マジで出てみる?」
 花音が楽譜を閉じて、生徒に渡すと、しばらく唸り声を上げて、花音を見上げた。
「最後に出てみようかなぁ・・・。来年になったら、受験だし。受験以外の事出来ない気がするし・・・。」
「じゃ、年内にあるヤツ、探してみるか。」
 微笑んだ花音に生徒が笑って、楽譜を仕舞い鞄を持つと、手を振って「ありがとうございましたー」と出て行った。

 

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