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歴史・時代

東京探偵小町 第四話「父の形見」 <2>

   

「大体、大将がンなモンを使うようになっちゃ、俺たちもおしめェだしな。ったく、なんのために俺がいると思ってンだよ、俺は剣の腕を買われて、『九段坂探偵事務所』に入ったんだぜ?」

小説版『東京探偵小町
第一部 ―怪盗編―

Illustration:Dite

 

 アヴェルスが犯行を予告した午前零時を待ちながら、時枝は店の片隅で、ひとり膝を抱えていた。ズボンのポケットにしまった小さな拳銃が、なぜだか怖い。これが人を傷つけ、時にはその命を奪うこともあるのだ思うと、震えが走るようだった。
「大丈夫ですか、お嬢さん」
 時枝が、もう一時間近くもそうしているのを見かねて、倫太郎がそっと声を掛けてきた。和豪も気にしていたのだろう、下駄を鳴らしながら寄って来る。「履物が違うと調子が狂う」と言って、和豪はいつもの下駄履きで、今夜の怪盗退治に乗り込んでいた。
「ねえ、倫ちゃん、これの使い方を教えて」
 時枝は、ポケットから形見の拳銃を取り出した。
 どんなに軽量化されていようとも、時枝の手に、その鉄の塊はズシリと重い。それはそのまま、彼女が選び取った道と責任の重さでもあった。
「いいえ、いけません。その拳銃は道源寺警部がおっしゃった通り、大事に持っているだけにして下さい。それにたぶん……ちょっと貸して下さい」
 時枝の手から拳銃を受け取り、倫太郎が「やはり」とつぶやく。時枝に返された拳銃は、当然のことながら弾倉から弾が抜かれ、空になっていた。
「ね、これでは使い物になりません。道源寺警部も、お嬢さんには使わせないつもりで、これを返したんだと思いますよ」
「そうなの…………」
「大将、こればっかりは、倫太郎や道源寺のオッサンの言うとおりだぜ。持って帰って、机の引き出しにでもしまっときな」
 床に片膝を着く倫太郎の横にしゃがみ込んで、和豪も口を挟んだ。だが、倫太郎も和豪も、時枝の手にある拳銃をどこか辛そうに見つめている。朱門の拳銃は、二人にとっても懐かしいものである反面、限りなく辛い記憶を呼び起こすものでもあった。
「大体、大将がンなモンを使うようになっちゃ、俺たちもおしめェだしな。ったく、なんのために俺がいると思ってンだよ、俺は剣の腕を買われて、『九段坂探偵事務所』に入ったんだぜ?」
「嘘おっしゃい。家も学校も飛び出して、やくざ者になるすんでのところを、先生に拾ってもらったくせに」
「だっ、誰が拾ってもらうかよ、犬猫じゃあるめェし! あの後、大将が俺ンとこの道場に来てだな」
「この少年は、わたしが必ず更正させてみせますから、どうぞご安心をって言ってくれたんでしょう? それで何とか、勘当を免れたんですよね」
「やあだ、わごちゃん、それほんと?」
 時枝が思わず笑い出し、和豪が倫太郎をギリッと睨みつける。否定しないところを見ると、倫太郎の話は本当なのだろう。ひとしきり笑って迷いが吹っ切れたのか、時枝は倫太郎に促されるまま、再び拳銃をポケットに収めた。
「で、さっきから黙りこくって、何考えてやがったンだよ。ひょっとして、まァだ腹が据わんねェのか?」
「ううん、父さまが亡くなったときのことをね、ちょっと思い出してたの」

 

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