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幻儚奇譚<6> 金色の矢

   

 百練自得という言葉があります。
 練習しなければ、技術は身に付かない、という意味です。
 不器用なら、それだけいっそう練習が必要です。
 不器用なくせに練習も不十分なら、その結果は恐ろしいものになります。

 

 小峰淑子は、弓道場へ向かっていた。
 教授に、ゼミ旅行の計画表を渡しに行くのである。
 小峰淑子が在籍する文学部日本文学科では、半年ごとに、ゼミ旅行が実施されていた。
 日本文学の舞台となった土地を訪ね、作品の理解をより深める――。
 これがゼミ旅行の目的であった。
 だが、それだけではない。
 名所を見学して、美味しいものを食べて、夜はコンパ――。
 これがあるため、ゼミ旅行は、人気の的となっていた。
 しかも、小峰淑子が教わっている教授は、さばけた人であった。
「これまでの授業をふまえ、何処へ行き、何を見るか、君たちで計画しなさい。計画も勉強のうちだよ」
「よし、がんばるぞ」
 小峰淑子とゼミ仲間は、夢中で計画を作った。
 旅行するのは春、桜の季節である。
 やはり、場所は京都がいい。
 小峰淑子たちは、片っ端からガイドブックを読破し、行きたい料理屋や甘味処をピックアップした。
 それを、3泊4日の日程に組み込む。
 そして、最後に、行きたい場所の近くにある古典文学の故地を書く。
 なにしろ京都である。
 至る所に古典文学の故地があり、探し出すのに苦労はなかった。
 こうして、観光が主、文学勉強が従の計画書が出来上がった。
「午後からは、顧問をしている弓道部で打ち合わせがある。計画書は、弓道場へ持って来なさい」
 小峰淑子は、サッカーの練習をしている運動場を左手に見ながら、弓道場へと向かった。
 嵯峨野の湯豆腐のことを思いながら……。
 そして、弓道場に入ったとき、小峰淑子は、愕然とした。
「あ、しまった!」
 弓道場は、弓で矢を射る場所である。
 沢山の矢があるのだ。
 湯豆腐に気を取られ、矢のことを忘れていたのである。

 

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