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SF・ファンタジー・ホラー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第32話 刻む別れ

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「お願いだから、私にもうこんな選択をさせないでッ…!」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

次回、第三章の幕開け。

 

 
 私はまた、大切な人を失ってしまうのか――――。

「姫。私の願いをお聞き入れ下さい」

 プラインのその目に迷いはなかった。ただ一つの答えを待ち望んでいる。けれど、それでは彼女とオールを置き去りにしてしまうことに。それは嫌だ。それだけは嫌だ。

「だめよ…絶対にだめッ! あなた達も一緒に行くの。一緒に生き延びるの!!」

 もうこれ以上、誰一人として失うわけにはいかない。
 このままプラインとオールを置き去りにしてしまったら、私は今以上に、自身を恨むだろう。己を憎み、ルイスと共に生き延びることすら許せなくなってしまう。

「…やめて、プライン。そんな目で見ないで。私は…私はッ」

 プラインは私の言葉を遮って、ゆるりと微笑んだ。その笑顔は、私達が置かれているこの危険な状況など全て忘れ去ってしまいそうになるほどの、幸福に満ちた笑みだった。

「あの花壇の前で、以前私が姫に話したことを覚えておいでですか?」
「――――……」

 彼女の言葉に導かれるようにして、私の脳裏である情景が蘇った。咲き乱れる青い花と、彼女の曖昧な微笑みが――――。あの時はまだ、城で負った傷が治っていなかった為、車椅子で移動をしていた。そんな私を彼女は町へと連れ出してくれた。そして、見せてくれた。プランジットの景色と彼等の生きる世界を。
 彼女は、生きていることを罪だと思っていた私に、どこか懐かしいあの光景と“言葉”をくれたのだ。今でもそれは鮮明に思い出される。
 

 ――――『去って行った者達は、二度と姫の元へは帰って来ません。失った命は蘇ることはないのです。それは、曲げてはいけない道理でございます』
 

 ――――『私も、オールもルドウも。そして、ピクシス先生も、それを痛いほど理解しているのです』
 

 ――――『己の為に消えてしまった命なら、尚のこと辛い。どれだけ足掻いても、決して時が戻ることはないからです』
 

 あの言葉は、きっと彼女だからこそ言えたのだ。死んでしまいたくなるほど辛く、殺してしまいたいほどに憎い相手がいる。プラインの抱える過去は、あの言葉と眼差しと共に、私へと伝わって来た。そんな過去があるからこそ、私の想いを死ぬほど理解しているのだろう。だから、彼女はあえて今、私に尋ねるのだ。覚えているのか、と――――。
 眉を寄せ、涙を堪えたまま、私はプラインの手に触れると頷いた。

「ええ、覚えているわ。あなたの言葉は、全て覚えています。私にあの景色を見せてくれた。私にあの花の美しさを教えてくれた」
「…………」
「今は、何もわからなくてもいい。それでもいいから、いつか知ろう。その為にも生きよう。そう思わせてくれたのはあなたよ、プライン」

 プラインは、私にとってそんな存在なのだ。
 ルイスに明かせなかった私の気持ちを悟り、受け入れてくれた。ミッシェルと重なる笑顔と瞳が、いつも私に安らぎをくれた。彼女をこんなところで失いたくなどない。

 ――――だが、もう私はわかってしまっていた。彼女の決心が揺らがないことを。何故ならプラインは今、“大切な人を失おうとしているからだ”。愛する夫を――――自らを庇い、矢を受けた夫を。
 憎まれ口を叩き合いながらも、彼等は愛し合っていた。私とルイスを守り続けてくれた。

「だから、あなた達を失うことは出来ないの。お願い、わかって。お願いだから、私にもうこんな選択をさせないでッ…!」

 ピクシスの時も私は選択を誤った。彼を選んでしまったことで、彼にあれほど辛い死を迎えさせてしまった。今も、そうだ。ここで彼等を置いて行けば、プライン諸共もろとも助からないだろう。王国兵に捕まり、ピクシスと同じ末路を辿る。私がプラインの意思に従えば、彼女は死ぬ。間違いなく、殺されてしまう。

 もう嫌だ。もう誰の死も選択したくない。私にはもう、そんなことは出来ない。
 

 

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