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幻儚奇譚<7> 赤い照る照る坊主

   

 巷に雨が降るように、詩人の心にも雨が降ります。
 浪漫の雨。
 濡れてみたいですね。
 幻儚の世界の雨には、濡れたくない。
 照る照る坊主を吊しておきましょう。

 

 飯島誠治が、世を捨てて庵を結んだ場所は、県境の山奥であった。
 四方から山が迫る土地で、ほとんど日が射さない。
 しかも気流の関係で、一年中、霧に覆われている。
 あの事件で世を捨てた飯島誠治にとっては、ふさわしい場所であった。
 飯島誠治は、まだ二十代であったが、心は既に朽ちていたのである。
 あの事件。
 自分の一言が、あの事件を引き起こした……、と飯島誠治は、間断なく後悔し続けていた。

 飯島誠治は、身体を動かすのが好きで、歌が上手であった。
 また、子供と遊んでいると時間を忘れてしまう。
 こうした性格を生かすのに最適な職業として、飯島誠治が選んだのは、幼稚園の先生であった。
 子供たちといっしょに合唱をして、ダンスを踊る。
 晴れた日には、運動場でゲーム。
 雨の日は、読書会。
 これを毎日繰り返し、そして給料を貰えるのである。
 飯島誠治は、これぞ天職、と思うのであった。
 飯島誠治がいちばん得意としたのは朗読であった。
 絵本を、思い入れたっぷりに読むと、園児たちは、目を輝かせて、聞き惚れるのであった。
 例えば、〈アリババのぼうけん〉。
 もちろん、アラビアンナイトの話を、易しくした絵本である。
 この本を朗読した後で、園児たちの間では、砂漠の遊びが大流行した。
 砂丘を登ってオアシスを探す――。
 盗賊との壮絶な戦い――。
 秘密の岩戸を開ける不思議な呪文――。
 そして、光り輝く財宝――。
 こうしたシチュエーションで、園児たちは、アラビアンナイトを楽しんだのである。
 だが、木谷亮太だけは、宝探しの冒険に加わらなかった。
 他の園児たちが遊ぶのを、独りで見ているのであった。
 遊びに入りたいけれども、入れない、というのではない。
 冷ややかにみんなを見下しているのでもない。
 ただ、見ているだけ、という雰囲気なのである。
 そして、飯島誠治に質問した。
「せんせい、なぜ、ゴマなんですか?」
「え?」
「たからもの、のトビラをあけるのに、ひらけゴマ、というんでしょう」
「ああ、その呪文のことか」
 飯島誠治は、これは秘密だよ、というように声を落とした。
「あれはね、さばくの、まほうつかいの、とくべつな、ことばなんだよ」
「ふうん。まほうつかい……、ことば……、トビラがひらくんだ……」
 木谷亮太は、子供らしからぬ目つきで飯島誠治を見て、部屋を出て行った。

 

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