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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season16-10

   

 油原がユダだった。御影の後頭部を鈍器で叩きのめしたのも油原だった。

 御影は昨夜洞窟で見た光景がすべての答えを悟った。預言とは真っ赤な嘘であること。教祖が念仏のように暗号を唱えると、十字架の裏側で黒ずくめの人物、裏信者に犯行するよう指示しているのだ。

 解読した裏信者は評論家のときのように殺害する。教団にとって障壁となる人物はしらないところで死亡するように手をくだしていた。

 小屋で目覚めた御影は、油原とふたりだけだった。

 御影の潜入目的を包み隠さず話す。すると油原はいまの浅野教祖が自分たちを裏切ろうとしているようで不安だったという。

 都議員の大池氏に成り代わって実権を握ろうと、フィクサーになろうとして、いつかは信者を見捨てるような気がしていた。

 そして油原はいまの状況が重荷になっていた。

 御影の提案で油原に持ち掛けた。そして油原はふたたび家族との暮らしを想像していた。

 神ではない。身近な家族に心が揺らいでいた。

 気がかりなのは誰よりもはやく浅野会の信者になった浜戸 アトラだった。

 そんなことを思い浮かべていたときスタジオの舞台で悲鳴が轟いた。

 第二の遺体。突如して倒れた。

 そしてついにその殺害を手にくだす首謀者が姿を現した。

 

 裏切り者のユダは、油原だった。

「なぜ、裏切った?」桐谷がたずねた。

 油原は唇を閉ざしたまま桐谷をにらんでいた。

「おれがいおう」御影はいった。「昨夜、おれはひとりでアジトの洞窟から灯りがもれているから探ってみた。そこで、教祖が祈祷していた。大きな十字架にむかって、しかし、その裏側には黒ずくめの人物が二人ほど隠れていた。預言、教祖はそれを唱えていたと思うが、それは暗号化されたような念仏を繰り返し唱えている。すると、黒ずくめの人物はようく聴き取り、それが教祖からの犯行声明であることを解読する。そして即実行された。おそらく評論家についてもそうやって伝えてから、浅野会の裏組織の信者に依頼したのだろう」

 教祖はあきらかに顔色が変わった。

「図星のようだね」氷室がいった。「もっとも、そこの油原さんか、彼が裏切っていることで御影くんが解き明かした内容について、揺るぎない真実であると、犯罪の証明をしてくれたようだ」

「それをおれは観察していたとき、まだ油原さんとたいして面識も言葉も深くかわしていなかったから、不意を突かれて後頭部に鈍器を叩き落とされ気絶してしまったが、目を覚ましたときに油原さんの隠れ家に運ばれていた。信者の住居である建物とはちがった小屋のようなところだ」御影はいった。

「そこにずっといたのか?」川上がたずねた。

「はい、油原さんに囚われの身になったが、おれがどういう目的で侵入したかを包み隠さず露呈した。もう後がないためしかたなかったが、このことは油原さんは誰にも報告していなかった」

 なんの目的で侵入したか、御影にたずねてきた。

 評論家の死因について、教祖の素性、そして預言の正体。それは犯罪的なトリックなのではないのか。

 フィクサーとしての浅野教祖は政治家の大池の傍らで実権を握ろうとしている。

 だが、いつか信者を捨てて自分だけがのしあがろうとしているのではないか、と油原は疑念を抱きはじめていた。

「一度は救いのために信者となり五大預言者のひとりして幹部になったが、いまではそれが重荷になり、苦しんでいた。ねぇ、油原さん」御影は視線をむけた。

 同意するように頷いた。

「おれは御影に持ち掛けられた、浅野会の裏の真相を暴露すれば助かるって、人殺しにはなりたくない。そんな集団に成り下がったことが神を重んじる浅野会は、冒涜している。そう思ったが、教祖は耳を貸さなかった。いやになった…」油原は浮かない顔でいった。どちらも罪であるかのような自覚をしながら、御影の正義に乗っかったのだから。

 油原 大夢(あぶはら ひろむ 37歳)。会社勤めをして数年後に結婚。娘がひとり産まれた。
 祝福され周囲から羨ましがられるほどの良い家族と、逆に妬みの原因になっていた。

 油原はおぼえのない仕事のミスを押しつけられ解雇された。何度も会社に訴えたが、退職金を三か月分上乗せしてついに門前払いとなった。法廷で戦おうと思ったが、妻や娘のためにことを荒げるような暮らしを生きることはできなかった。

 しかし、その判断もまたまちがいだった。妻は娘を連れて出ていった。

 手紙だけが置かれていた幸福の部屋は無にひとしいくらいの空虚感に浸った。

 とりあえず別居という形でまだ家族としてのつながりはあったが、やはり毎日笑顔溢れる妻と娘の顔をみれない生活には耐えられなくなっていた。酒を飲んで荒れる生活をしていた。そんな自分が嫌気をさしていたころ、なにを思ってか、唐突に日本を離れる決意に至った。西洋へ旅立った。そこで浅野に出会った。聖職者のような装いで道で演説している堂々たる彼の言葉に耳を貸していた。どんどん彼の言葉がこのときの油原の胸を打っていた。

 32歳で入信した。そこには浜戸 アトラがすでにいた。

「だが、あなたに罪があるかないかは警察の捜査によって決まると思う。この預言での裏でほんとうは評論家が指摘したどおりなら、抜けた方がいい。また奥さんと娘さんは待っているんじゃないかな。あなたの立ち直った姿で、かつての笑顔あふれる家庭で暮らしたいとね」御影は説得を試みる。

 油原はこれといって罪を犯していない。だが、入信者として預言犯罪を行っている事実は知っていた。その事実を警察に密告してもいいはずだ。それについては共犯者といわざるをえない。そのことは咎められるだろう。

 たとえそれが教団の圧力で脅されていたとしても。

「わかった」油原は御影との対話に了承した。

 油原が御影と徒党を組み、油原はユダとなり御影は信者に成りすまし影となる。

 そして御影だけは別行動をとって番組のプロデューサーに頼んだ。

 そしていまに至る。

 

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