幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

さよならじゃなくて

   

 クリスマスコンサート当日。
 やはり大和は大和だった。
 彼は彼らしく、コンサートの時に聴衆と高校生二人にレストランを引退することを述べたのだった。

 

 
 クリスマスコンサートまで、穏やかに時が流れていった。
 穏やかすぎて、温かすぎて。
 毎日、今日が終わらなければいいのにと思っていた。
 しかしそんなことはやはり起きるわけではなくて、毎日時間は過ぎていく。
 悲しいかな時は流れていく宿命にあるのだ。
 

 十二月下旬。
 クリスマスイブ。
 朝から雪が降っていた。
 前日から実家に泊まっていたため、目が覚めたときには実家の自室に寝ていた。
 どうして実家に帰ろうと思ったのかは言わなくても察してほしいと思っていた。

 一人になると、泣きたくなくても涙が出てしまうから。

 マンションの自室には、もう必要最低限のものしか残っていない。
 もともとそんなに物の多い部屋ではなかった。
 しかし力いっぱい散らかり倒していた。
 整理整頓は、子どもの頃からとにかく苦手なのである。
 父がちょこちょここの家の片づけをしてくれていたおかげで、散らかすにも物がない。
 そんなに広い部屋じゃないのに、ものがなくなっていくのがとにかく怖かった。

 温かいはずの自室が冷たく感じてしまって、なんとなく疎遠になってしまって。
 ことあるごとに心治の部屋に転がり込んだ。
 いつもならばいやそうな顔をして追い出すのに、嫌な顔はしたものの追い出しはしなかった。
「散らかすなよ。」
 いつもならば、いつまでいるんだとか早く帰れという心治が、いやそうな顔をしつつも追い出さずにいてくれているのはありがたかった。
 それに甘えて一週間近くも長居してしまい、これはよくないと実家に帰った次第である。
 実家の自室は相変わらず泥棒が入ったような汚さで、大和本人としてはとても落ち着く。
 足の踏み場はギリギリない。
 絵に描いたような“男の子の部屋”である。
 ものがあると落ち着く。
 散らばっていると、なお落ち着く。
 だから今こうして目が覚めたときにも涙が出ずに済んだのだ。

 ──起きちゃったなぁ…。この日が来ちゃったか…。

 寝転んだまま眺めた窓の外の空には、ハラハラと小雪が舞っていた。
 どうりで寒いわけだと、布団にくるまって小さな息をつく。
 
 

 知らないうちに二度寝していた。
「いい加減起きなさいよー!遅刻する気ー?!」
 一階にいる母親からの声で、大和はうっすらと目を覚ました。

 ──あれー…寝てたわ…。

 いつの間に寝てしまったんだろうかと、枕ものと携帯電話に手を伸ばす。
「待った!遅刻する!!」
 いつもならばもう家を出ている時間ではないか。
 寒いなんてどうだっていい。
 パジャマをポイポイと脱ぎ捨てて、床に落ちている衣類を適当に身にまとう。
「母さーん!どうしてもっと早く起こしてくんなかったんだよー!!」
 階段下にいるであろう母親に若干八当たる。
「あんた自分の年齢考えなさい!起こしてもらう年じゃないでしょ!早く準備していきなさい!ホットサンド持たせてあげるから食べながら行きなさい!」
 いつも通りの光景すぎて、母親としても悲しむ暇などなかった。
 
 
 

 

-ノンジャンル
-, , , , , , , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品

宅地造成 (前編)

   2017/09/26

ロボット育児日記27

   2017/09/26

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第30話「予感」

   2017/09/25

見習い探偵と呼ばないで!【番外編・御影解宗のデート】4

   2017/09/25

家元 第十部 危機を越えて

   2017/09/22