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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第34話 忘れてはいけない名前

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「――――“マーサ”?」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

今は遠い記憶の中で、笑う。

 

 
 ルイスのこの謝罪の意味を、私はもうすぐ知ることとなる。その時、私は――――この世界を恨むのだ。

***

「! 兄様、列車の速度が落ちたわ」
「――――着いたね」

 ルイスの持っていた切符を覗き込むと、終着駅と思われる町の名前が書いてあった。それを小さく読み上げる。

…?」

 アヴァランと言えば、確か――――。
 聞き覚えのある町の名前に、私は僅かに首を傾げた。

 軽い荷物を持って、ルイスと二人で辺りを慎重に窺いながら、車両を降りる。そこで、時計が目に映った。
 プランジットからここまで、軽く数十時間は列車に揺られていたようだ。アヴァランに着いた頃にはもう、時刻は夕方を過ぎていた。

「もうこんな時間なのに、さすがにこの町は活気があるな」
「…!」

 ルイスに言われて、私は駅を出ると、目を見開いた。目の前に広がる、夕焼けと溶けた景色に思わず目を奪われる。
 耳を覆いたくなるほどの喧騒と、明るい景色。それに思考を手助けられるようにして、私はここが“何の町”か思い出した。

「兄様、ここは…」
「――――アヴァラン。カーネット王国の中でも特に栄えていて、貿易が盛んな町としても知られている。プランジットとは比べ物にならないほど多くの国民が、ここで生活をしているんだよ」
「で、でも」

 それは知っている。カーネット王国の貿易を支えていると言っても過言ではない、大きな町だと言うことも。だからこそ、疑問なのだ。
 私達は今、身を隠すべき状況下にいる。それにも関わらず、何故よりにもよってアヴァランに身を寄せるのだろう。

「兄様。何故、こんなにも人通りの多い町へ…? 私達は逃げなくてはならないのに…」

 この町が豊かであるのなら、尚のこと危険だ。富裕層が多く住み、カーネット王国を支えている町であるのなら、王国兵も多く駐在していることだろう。そこへ、失踪中の王子と王女と似た者達が姿を現せば、混乱は免れない。その場で拘束されてもおかしくはないのだ。十分にありえる話だと言うのに、何故ルイスはこの町を選んだのだろうか。私でもわかる危険の可能性にルイスが気づいていないはずがない。
 そんな私の疑問を感じとったのか、ルイスは荷物を持ち直して、私の手を握った。

「貿易が盛んである理由の一つとして、ここには大きな港があるんだ」
「港?」

 私の言葉に緩やかに微笑み、彼はフードを深く被った。その仕草に倣い、私も怪しまれない程度にフードを被る。

「僕達の“協力者”がね、もうすぐ船に乗ってこの町に辿り着く手筈てはずとなっているからね」
「協力者って…臣下とは違うの?」
「うん。少し違うね」
「…………」

 また、私の知らない世界の話。私は俯きながら、大きく息を吸った。

「“彼”は僕の友人なんだ。だから、王子の僕に仕えているわけじゃない」
「その方といつ連絡を取ったの?」
「いいや、城を出て以来、一度も連絡は取っていないよ」
「!?」

 思わず町中で大きな声を出しそうになった。

「どういうこと? どうして、連絡も取り合っていない相手がこの町に現れるとわかるの?」
「…そういう約束だから」
 

 

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