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ショート・ショート

見えずの毒

   

結婚生活に悩む藤倉 良子は噂を辿り、「薬」に詳しいある男と面会する。

彼は、決して毒とは検出されない成分を武器として人を弱らせることができるのだという。遊び好きで女好きな夫にお灸を据えるには最適と言えた。

藤倉は男から、瓶に入った錠剤のようなものを手渡される。事前調査で聞いていた、夫が良く飲むというサプリと形をまったく同じくさせたその薬は、長期間をかけてじっくり弱らせることができる上、料理や飲み物の味も変えないのだという。

主人公は、数ヶ月後の人間ドックを目処に、夫に気付かれぬよう薬を盛り続けることにした……

 

「わざわざすみません、藤倉さん」
 人気のないバーの地下室で藤倉 良子の前に立っていたのは、自分よりいくつも歳下に見える男だった。
 小柄でにこやかで、いかにも人当たりが良さそうなタイプに見える。
 この外見からは、電話で話していた彼の経歴を想像することなどできない。
(でも、確かにそうね。映画や漫画の世界じゃないんだから、『いかにも』な外見じゃ駄目なんだわ。むしろ逆に、周りから警戒されないような姿形じゃないと)
 ただ、彼女は拍子抜けした内心を簡単に人に見せるような性格ではなかったし、それができるような状況でもなかった。
 しかし、若い男はあくまでにこやかに微笑み続けていた。
「さすがに人前で相談するには物騒すぎる話ですからね。苦労をアピールするようでなんですが、いくつか危ない橋を渡ってきてもいます。本当に決心は揺るがないと?」
「ええ。あれからずっと見てきましたが、『彼』はまったく変わってはくれず、むしろひどくなっているようにさえ思えます。だから、止むを得ません」
 塊を必死で口外に吐き出すように喋る藤倉に向かって、若い男は軽く頷き、容器を手渡した。
 プラスチックで作られているタイプのもので、家にいくつもある、サプリメントが入った容器とまったく同じ形である。
 それどころか、貼られているラベルまで完全に一緒である。
「僕らは完全に指紋が消えていますから大丈夫ですよ。カードキーは使えませんが。どうぞ、開けて見て下さい」

 

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