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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第36話 溶け出していく思い出

   

陰謀と悪意、そして信じたものの為、幼き王女は立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「いつの日かまた――――あの樹の下で、笑い合える時が来るよね」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

今は遠い記憶の中で、笑う。

 

 
「真実を知りたいの。立ち向かう為には、必要なことでしょう」

 私達が城を追われた理由と、ルイスが私に隠していることは、必ず何か関係があるはずだ。それを知らずして、立ち向かうことなんて出来ないと私は思う。
 けれど、ルイスはただ笑って、私の頬に手を添えた。それだけで、何も口にはしなかった。

「兄様…」
「エリザ、よく聞くんだ」

 少しだけ恥ずかしそうに、そして辛そうに笑ったまま、彼は私を抱き締めた。その温もりは、今まで当たり前のように与えられてきた温度であったはずのに、とても離し難く感じたのは何故なのだろうか――――。

「答えは自分で見つけるんだ。僕から与えられた真実で、お前は満足しないだろう? 自分で探して、掴み取って、それでもわからず、まだ僕に真実を問いたいのなら、その時は好きなだけ尋ねるといい。僕はエリザの問いになら幾らでも答えてあげるよ」
「ルイスといれば、見つけられる?」
「――――僕といなくても、見つけられるよ」

 そう言い、私の髪に口付ける。そんな兄の温もりを噛み締めながら、私は涙を流した。涙の理由はわからない。ただ、“怖い”。

「怖いよ…ルイス…私はもう、何もわからない…」
「…大丈夫だよ。もう二度と、お前を傷つけさせはしないから」
「私は、兄様が傷ついてしまうことが怖いのよ。その方が、何倍も何十倍も恐ろしいわ」
「エリザ…」

 優しい温もりも、ルイスの厳しい言葉も、笑ってはぐらかされてしまった今日のことも、全てが私の思い出になっていくのだろう。そう思ったら、恐ろしくて仕方がなかった。どうしても、今日だけは彼と離れたくない。何故だか今、ルイスのことを離してはいけないと――――そう思った。

「兄様。今日だけは、ずっと触れていてくれない?」
「エリ、ザ」
「お願い、兄様。怖いの…とても」

 これほどまでに恐怖を口にしたのは、今日が初めてのことかもしれない。
 それは、今まで忘れ去っていた感情だ。だが、プランジットを離れたことで、再び私の心に向かい降りかかってきた。

 車で走り去るエドガーの姿。プラインとの大切な約束。傷ついたオールの姿。死んだ仲間を弔いに戻ったルドウの背中。その全てが、『私』という存在を作っていく。そうわかっているからこそ、ルイスだけは失えない。彼が私の前からいなくなってしまったら、私は生きてはいけないから。
 こんな私に残された、たった一人の家族なのだ。いや、それ以前に愛している人。彼をなくして生きていけるほど、私は強い人間ではない。
 ルイスが傍にいてくれるからこそ、私は叔父様と戦う気持ちを固めることが出来たのだ。彼がいなければ、私は何も出来ない。

「食事は――――後にしよう」
「え…?」
 

 

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