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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

推理からはじめよう 1

   

 探偵の飛田は、自分の名前にコンプレックスを抱いていた。そのせいで両親とは別に暮らし、その両親も別居している。互いにテレビに出たりしながらそれぞれの才能を活かして仕事をしている。

 飛田もまた独自の人生をおくりたいがために、性格的に細かいことが気になり刑事にはない着眼点を持っているため、探偵業を経営している。

 難事件があるときには協力を惜しまず捜査をする。

 今回も、飛田探偵に事件の依頼が舞い込んできた。

 

 探偵の飛田は、いつになく不快な目覚めによって朝をむかえた。

 それもそのはずだ。部屋は電気が点いたまま眠り、エアコンをつけていたが、28度と、暑くも寒くもない適温の設定だった。そのため布団をかけずに眠っても体調がわるくならない。

 ジーパンに靴下も履いたままだ。ワイシャツにテーラードジャケットを着こんでいる。

 外出する格好が寝間着なわけではない。そこまでズボラな性格ではない。が、そうなってしまうときの要因が、昨夜はあった。

「ひらめいたと思ったらそのまま倒れるように眠っちまったんだ」

 若干、首周りが汗ばんでいる。「シャワーを浴びたい、きょう推理を聞かせなきゃならんのに、気分はめちゃめちゃだ」

 案の定、その願いを阻むように携帯電話が鳴った。

「警部からだな」警部だとわかるように、着信音は警戒をしらせるためにベートーベンの『運命』にしている。

 ジャジャジャジャーン! これほどのいやなしらせはない。着信ボタンを押すと、いつもの警部の声が頭に響くことになる。

「時間とどうも縁がない。いつも急かして待ってくれない」飛田はうだれるように電話に出た。

「はい…警部どうも」二言三言交わした。「わかりました。はい、すぐに行きますよ―」

 飛田は寝起きの格好で出掛けられた。

「もういいや、このままで。気分は最悪なままだ。」

 自宅のマンションをでると都合よくタクシーがきた。空車だった。

 手をあげてつかまえることに成功。乗り込み行き先を告げた。都内にある大金持ちの屋敷だ。失礼のないように正装するべきだったが、その時間をくれないのは警部のせいだ。

「まったく、刑事というのは電話のでかたもしらんのか、いちばん憤慨なのは名前を言い間違えることだ」

“あっ、おはよう。起きたかね飛田 真男(とびた まさお)探偵。もうこちらに向かってますかね? そうですか。そんじゃ推理ショーたのんますよ。犯人をみごと当てて事件解決にご協力を、それじゃあとで”。

「がさつなとこは、うちの両親とおなじだな。ひとの性格か、それをどうこう指摘してもなおるものではない。なら、もう気にしないこと。それがいちばん生きていくことで多大な苦悩から逃れられる」

 私は、飛田真男(とびた まことお 25歳)だ。

 母親は最初に、真男(まさお)と名付けようとした。だが、そのあと父親は、真(まこと)と名付けようとした。

 真男の男、を消し忘れた父。

 ひらがなは、ま“さ”お、の“さ”を消し忘れ、ま“こと”、“こと”を書き込んだが、まさ“お”、の“お”が書き込まれているのを消し忘れた。

 結局、ひらがなの欄は“まことお”のそのまま提出されてしまった。

 最後にチェックしたのは母親だった。提出したのが母親だからだ。だが、最後の最後で見逃していた。思い込み、先入観によって戸籍謄本には“真男”で“まことお”、と名前がつけられてしまった。

「ややこしいことを──」まったく、ずぼらで、気に止めない、人生を修正しようとせず、失敗しても挫けずに突き進む似た者夫婦でありながら、おたがいのミスを謝罪せず意見はぶつかり、いまでは別居だ。

 離婚はしないがもう10年たがいにすれ違った暮らしをしている。

 真男はそれが原因で両親からは別々の愛情をもらっている。

 切ない子ども心にも、ほかの家族とはちがうことをなんとなくわかっていた。

 飛田 優理子(とびた ゆりこ 49歳)。母親だ。女医で、町医者を営んでいる。吉祥寺で経営している。在宅も兼ねているマンション住み。3LDK。一人住まい。猫一匹飼っている。周囲の評判はよく信頼されている。手腕もある。たまにテレビにも出演している。その変わらない容姿に熟年女性の支持を得ている。

 飛田 大治(とびた だいじ 50歳)。父親だ。世田谷のマンション3LDKで一人暮らし。犬を飼っている。気晴らしに犬の散歩にでかけることが習慣。評論家で作家でもある。主に執筆しているのは社会派問題をノンフィクションで執筆している。事実を書くのだ。テレビによく出演してはうさんくさい適当なことを真顔で発言している。意外と世間は納得させられている。

 気にいらない両親だ。

 活躍の場が似ていることも、このふたりは運命さながらな夫婦でありながら、第三者として間にいる真男の名前ひとつで愛は亀裂を生じてしまった。

 責任はないにしても、物心ついてからは責任を抱いていた。

 子どもの立場ではうんざりしていた。だから独自の道へ進もうと、関わりのなさそうな探偵をやっている。

 真男は小さな探偵事務所を経営している。あとほかに4人仲間がいる。

 いつも名前のことになると、両親との思い出の思想が浮かびうんざりしてしまう癖があった。

 暇なタクシーの中ではちょうどよかったが、冷静さは欠け、心は憤怒の荒波が渦巻いていた。

 30分で屋敷についた。物思いに耽っていると時間の経過ははやくて助かる。

 覆面パトカーが2台並んでいた。

「やれやれ、期待されてんな…おれの推理ショーを──」

 

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