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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第38話 星のない夜空と湧き上がるもの

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「ルイスがいるから、私は本当の恐怖に溺れずに立っていられるの」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

今は遠い記憶の中で、笑う。

 

 
「神を心の底から信仰している人間は、この国には一人もいないんだ」
「それなら、国民達は一体何に祈りを捧げているの…?」
「何だと思う?」
「…わからないわ。少なくとも私はまだ、この世界に神はいると信じているから」

 ただ、その神様は――――私を見てはいないけれど。
 私の存在など、忘れ去っているのだろう。

「大丈夫だよ。外の世界のことは、これからゆっくり知っていけばいい」
「う、うん。そうね」

 違う。私が今、違和感を抱いたのは、自分の無知に対してではない。そうではないのだ。

 この世に生まれてから、ずっとこの国で生きてきた。私自身の運命を恨むことはあっても、カーネット王国に負の感情を抱いたことは一度もなかったのだ。この国にどれだけ嫌われようとも、私はカーネットを愛しているから。だが、この国には神を信じる民はいないとルイスは言った。
 神の存在を信じる民が一人も存在しない。それは、とても――――歪んでいるのではないだろうか。

「エリザ、止まって」
「!」

 くいっ、と手を引かれて、足を止める。ルイスは道の少し先を見つめると、『あったよ』と言って、私の手を前へ引いた。

「あれだよ。見えるかい? ほら、少し錆びているけれど、はしごが見えるだろう?」
「…? はしご…?」

 暗がりに慣れたとは言え、もう少し近づかなければ見えそうになかった。
 私が首を横に振ると、ルイスは微笑んだ。少ししてから、また立ち止まると、私の手を正面に向けさせた。その瞬間に、指先に何かが触れる。冷たい――――金属のようだ。

「これが、はしご? これを上るの?」
「そうだよ」
「…下りた時よりは、短いよね」
「うん。大丈夫だよ、怖がらないで」

 やっと、外に出られる。そう思うと、安心した。早く新鮮な空気を吸いたい。地下の空気はよどんでいて、埃臭かった。地上とは違い、明かりが全くないのは予想出来たけれど。

「先に上ってくれ。ゆっくりでいい。踏み外しても、僕がいるから大丈夫」

 私一人で落ちる分には構わないけれど、ルイスを巻き込むのは嫌だ。

 匂いや空気など何も気にせずに、一度大きく深呼吸をする。咳き込みながらも、私はどうにか心臓を落ち着かせた。マーサが穴を塞いでくれたとは言っていたが、安心は出来ない。私達はローレン殿と合流するまで、決して王国兵に捕まるわけにはいかないのだ。
 私達はもう逃げないと決めた、後は、戦う道しか残されてはいない。

 そう頭でわかっているのに、無意識の内にルイスの手に触れていた。

 ――――ああ、私は。恐怖に慣れたようで、まだ本当の意味での恐怖を知らないのだ。暗闇でじっとしているのも、ルイスの温度を感じられないのも酷く辛い。
 

 

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