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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第39話 苦しみも全て

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「信じよう。私は彼の妹なのだから」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

今は遠い記憶の中で、笑う。

 

 
「見てごらん、レイシー。教会はすぐそこだよ」
「本当ね。やっぱり大きくて素敵だわ…」
「素敵?」
「うん、綺麗。懐かしいと思えるほど、穏やかな雰囲気」
「――――お前には、そう見えるんだね」
「? 兄様にはどう見えるの?」
「僕には――――」

 私の問いに答えようとした彼の唇の動きが、ふと止まる。だが、歩みを止めることはない。その違和感に気づき、私はルイスの手を少し強めに握った。

「…兄様」
「…そのまま、振り返らずに聞くんだ」
「どうしたの」
「――――…追われているみたいだ」
「!」

 思わず振り返って確認してしまいそうになったが、堪える。気づいていない振りをしなければ。

「一体、いつから…」
「わからない。僕も今気づいたんだ」
「ッ」

 ごくり、と唾を飲み込んで、私は道の先と、左右の壁を睨んだ。次の角を曲がらなければ、ここから先は一本道。後ろから追い込まれれば、確実に捕まる。私達の後をつけて来ているのは、恐らく一人だ。気配や足音には十分に気を配っているつもりなのだろうけれど、私にはわかる。僅かな足音…そして、吐息。相手の人数を判断するには十分だ。そして私は、“相手が王国兵ではない”ことにも気がついた。恐らくルイスもそのことには気づいているはずだ。
 何故なら、カーネット王国の兵士は、滅多に単独行動をしないからだ。勿論例外はある。騎士団団長のような階級になれば、寧ろ一人の方が任務を円滑に進めることが出来るだろう。だが、そこまでくらいの高い兵士が、アヴァランのような港町に単身姿を現すとは到底思えない。

「…兵士ではない者が、追って来ているね…」
「…賊かしら」
「その線も考えられるが、多分違うよ。能のない人間が、足音も立てず、僕達を襲うわけでもなく、ただ後をつけて来ているだけだなんておかしいだろう?」

 言われてみればそうだ。ただの盗賊ではない。だが、一般人でもない。私では後ろにいる者が何者なのか見当もつかなかった。

「――――次の角を曲がったら、全速力で走るよ」
「っ、は、はい」

 ルイスの足手纏いにはなりたくない。

 城での出来事が、また脳裏を過った。私を庇い、振り翳された剣の前に出た兄の姿。私を守る為に、幾つもの傷を負った彼を思い出す度に、息が詰まりそうになる。けれど、今は苦しんでいる場合ではない。
 

 

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