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彼への気持ち

   

 大和が参加する最後のクリスマスコンサートは、大盛況のうちに幕を閉じた。
 それから始まった、スタッフとその家族のみで行われる二次会。
 楽しいはずのその会で、亜美だけはふくれっ面のまま彼への思いを巡らせていたのだった。

 

 
 クリスマスコンサートは、大いに盛り上がった。
 派手な曲、しっとりとした曲、歌って笑ってとにかく盛り上がった。
 しんみりする隙も無いほどに。
 聴衆も明るい空気のままに、クリスマスコンサートが終わってしまった。
 会が終わって、大和も周囲には彼のファンが詰め寄せてきた。
「こんないきなりいなくなっちゃうなんんて…。」
「もっと大和君とお話ししたかったのに…。」
 彼の親しみやすい雰囲気や明るい性格は、明らかにお客さんにも良い影響をもたらしていた。
 まさか自分の引退でこんなにも自らの周囲に人だかりができるだなんて、大和本人が想像もしていなかった。
「な、泣かないでください!」
 中には泣き出すくらいに、彼を慕っていたリピーターもいた。
 困ってしまった反面、自分は知らず知らずのうちにこうして慕ってもらっていたのかと、うれしくも思えてならなかった。
 

 そして、クリスマス会はお開きとなりスタッフとその家族のみ参加可能な二次会に突入した。
 ここで初めてスタッフに酒が入る。
「カンパーイ!」
 厨房とホールの全員がそろって、みんなで乾杯した。
 厨房スタッフが揃えた食事と、少し買い足したオードブル。
 この日のために買っていたお酒やつまみ。
 心治と両片思いの茜や諒の子どもたちも、会に加わった。
「残り少ない日数だけど、演奏はしないの?」
 行かないでとかさみしいだとか、そんな話をしないあたりさすが和彩なのだ。
「しなーい!しない!しないぞ!」
 すでに一杯飲んでいる大和。
「あら残念。海外で活躍するなら、それなりの技術なのに。一回でも聴いておきたかったわ。」
 全く残念そうではない和彩の声。
「弾かないぞー!俺は今日は楽しむんだからな!飲むんだ!」
 もう飲んでいる。
 コップ一杯で、大和は明らかに飲まれている。

 ──今日はうるさくなりそうだ。

 心治は内心そっと苦笑した。
 

 酒が入ると、自然と会話の内容も頭が悪くなるし、普段することのない部分にも話題が飛んでいく。
「茜さん。」
 明広に呼ばれて、茜が振り向く。
「はい?」
 人見知りをする方ではないが、人好きというわけではない。
 若干引きぎみの茜ではあるが、相手が引いているなんて明広がわかあるわけなんてない。
「心治とはまだ?」
「…まだ?」
「やーっぱなー!!奥手だもんなー心治!!」
「え?」
 戸惑う茜と、それにかまいなしの明広。
「調子に乗りすぎ。」
 バシン!と明広の腕に平手打ちが入った。
「いてー!!」
「殴られて住んで良かったじゃない。折られて細工不能になったんじゃあるまいし。」
「でもお前っ、相当強かったよ今の!?」
「手加減したつもりだったけど、あまりにもデリカシーのないセリフに若干の殺意がこもってしまって。」
「婚約者よ!俺!!」
「婚約者だから、羽目を外しすぎた旦那のしりぬぐいをしてあげてるんでしょ。ありがたく思いなさい。酔いがさめたら土下座じゃすまないことになるとこよ。」

 ──かっこよすぎでしょ…。

 和彩は飲んでも和彩だし、ぶれないのだ。
 その場にいた人間がほれぼれするほどに。
「ごめんなさいね。うちの人がパーチクリンなことばかり言っちゃって。悪気はないの。後で私がしっかり締め上げとくから、許してあげて?」
 不愛想というか、彼女は感情表現が下手だから。
 なかなか言葉の通りに表現が付いてこない。
「は、はい…。」
 茜はほんの少し、和彩が苦手だったりする。
 苦手というか、和彩のことがつかめないのだ。
「心治くん。」
 入るタイミングを完全に失っていた心治に、和彩の声がかかる。
「茜さんに変なこと言ってごめんね。」
 茜にこれ以上何か言っても彼女には響かないことを、和彩は心得ている。
 明広の腕を引っ張って、和彩はカウンター席に撤収していった。
 二人の背中を見送って、心治は茜のものとに向かった。
「申し訳ない。」
 心治も心治で、大和と話し込んでいて茜の元に戻るのが遅くなってしまっていた。
「ううん、謝らないで。彼が悪い人じゃないし嫌味で言ってるとは思ってないから。」
 そういって茜は心治ににこりと笑いかけた。
 彼女の笑顔をみて、また心治も不器用に笑う。
 
 

 そのころ、酒が入った諒が、大和にべったりと絡みついていた。
「行かないでー。大和君がいなかったら僕、どうしていいかわからないからぁー!」
 少し泣くなんて趣のあることもなく、心置きなく気持ちがいいほどに号泣する諒。
 ちなみに彼は素面である。
「泣くなよー。泣いても行くけど。」
「うわーん!!!」
 号泣に次ぐ号泣。
 こうなってしまえば、もういっそ思いっきり泣かせてしまって寝かしつけた方が得策かもしれない。
 ハイハイと苦笑しつつ諒をなだめる大和。
「彼の面倒見の良さは、ピカイチですね。」
 カウンターから大和と諒の様子を眺めつつ、マスターが笑った。
 マスターのそれに、ハハハと笑い声が上がる。
 その最中、一人だけ思い切り不貞腐れている人間がいた。
「亜美。」
 困ったように笑うマスターに、亜美は視線をそらし続けている。

 

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