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幻儚奇譚<11> 虹の塔

   

 幻儚綺譚の第11話です。
 縁起の良い数字ですので、これで中締めとします。
 もちろん、幻儚の世界は終わりません。
 続きます。
 虹の彼方まで……。

 

 ヒマラヤ山脈の中ほどに、エスカテムという、小さな村落がある。
 エスカテムとは、最果て、を意味するエスカテに由来する。
 はるかな昔、アレキサンダー大王が、「ここは、最果ての桃源郷だ」と言ったのだそうだ。
 桃源郷。
 たしかにそのとおりであろう。
 目を上げれば、白銀の雪に輝く山々――。
 冷たい渓流は、どこまでも清涼――。
 桃の花が、大地を覆い尽くすように咲き乱れる――。

 西川完治がエスカテムに来たのは、三十年前のことであった。
 日本のヒマラヤ登山隊のメンバーとして、ここに来たのである。
 西川完治は、この土地が気に入ってしまった。
 草地に座ってぼんやりしている西川完治の前に現れた娘は、桃の枝を持っていた。
 アレキサンダー大王の末裔のような、彫りの深い顔立ちであった。
 これで、西川完治は、エスカテムの人間になる決心をした。
 人文地理的にいうと、エスカテムは、中国とインドの境界に位置している。
 国境策定で扮装が絶えない場所なのだ。
 そのような場所での国際結婚の手続きは、困難を極めた。
 しかし、二人は、決して諦めなかった。
 五年後、正式に書類が受理された。
 それから今日まで、西川完治は、幸せに暮らしている。

 

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