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SF・ファンタジー・ホラー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第42話 約束と愛

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「――――最後にもう一度会いたいと、そう思った。」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

もう、何も――――思い出せない。

 

 

***

 私が物心ついた頃には、母は既に病に伏していた。ベッドの上で横たわる彼女を見て、私はいつも嘆いていた。何故、父は母を置いて、行方を眩ましてしまったのだろうかと。

 母の長い栗色の髪を、私は毎朝編ませてもらっていた。その度に『上手ね』、と声をかけてくれる母の優しい微笑みは、今でも目を閉じれば浮かんでくる。私を産んでしまったせいで、体を壊してしまった彼女に、あの頃の私は何と声をかけていいのかわからなくて、ただかたわらで黙っているばかりだった。
 母が亡くなるその日まで、私はルイスの背に隠れ、ルイスの手にしがみついていた。戸惑っていたのだ。彼女の無償の愛に。

 ルイスと一緒にいる時間の方が遥かに多かった私にとって、弱弱しく儚い母は、清らかな存在だった。だからこそ、そんな彼女が父によって苦しめられたことが、私とルイスはどうしても納得がいかなかったのだ。

『父様……父様、待って…母様を置いて行かないで…』

 靡く金髪を眺めて、私はその場に崩れ落ちた。本城の門の前で馬に跨った父の背を、私は見つめていることしか出来なかった。情けなかった。

『ルイスを…これ以上…悲しませないで下さい…」

 私とルイスの手を振り払い、背を向けた父。私達に一度も目を向けることなく、彼はカーネット城から姿を消した。彼が見えなくなっても尚、ルイスは拳を握り締めたまま、震えていた。

『さようなら、父様。――――僕は二度と、あなたを父とは呼ばない』

 そう悲し気に呟いたルイスを抱き締めて、私は泣いた。家族が欠けてしまった瞬間を見て、涙を堪えることが出来なかったのだ。あの時そんな私達兄妹を抱き締めた、あの強い女性は――――幼いルイスの怒りを鎮めた、私達の強い母は、気がついたらいなくなってしまっていた。一人では起き上がることも難しく、目を開けていることすら出来ない。そんな、弱い女性になっていた。

『母様、ごめんなさい。私のせいで…』
『――――レイシー』
『はい、母様』
『私はね、元から体が弱かったの。だから決して、あなたのせいではありません。城内の者の噂話に惑わされる必要はないわ』
『…でも、私のせいでしょう』
『レンカイズがそう言った?』
『いいえ、一言もそんなことは……だって、兄様はとてもお優しいから。いつも私を守って下さるもの』
『そうでしょう。あなたの兄があなたを恨んではいないのに、どうしてあなたがあなた自身を恨めしく思うのですか?』

 私の髪を撫でて、彼女は笑った。

『レイシー――――……いいえ、。よくお聞きなさい』
『…! は、はい…母様』
『お父様を恨んではなりません。己を恨んでもだめよ』
『どうして』
『…寂しいから』
『…寂しい?』
『ええ、とても――――。あなたにもわかる日が来るわ。あなたなら、きっと私のこの言葉の意味がわかるはずだから。だから、その日まで…“強く、生きて”』

 母が――――エルーナ・カーネット妃が、亡くなる数日前の出来事だった。
 

 

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