幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第43話 シアン・ローレン

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「どうして兄様は――――私を生かそうとしたの?」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

もう、何も――――思い出せない。

 

 『お前の兄貴との約束だよ』――――。

 彼の言った言葉を聞いて、私の頭に浮かんだのは、この町へ来た目的だった。ルイスの友人と合流すること。そして、ルイスが私に言った、その男の名前は――――。

「あなたが…“シアン・ローレン”…?」
「おー。あいつから聞いてたのかー」

 何でもないことのように、彼は適当に言葉を返した。そんな彼の背にしがみつきながら、私は思う。

 あの落ち着いた性格のルイスが、彼のように活発的な人間と友人関係にあっただなんて。それも、私のことを託すほど信頼しているとは、驚きだ。そして、それほどの関係でありながら、彼が“冷静すぎる”のも引っかかる。
 目の前で友人が捕らえられて、その妹が屋上から落ちてきたというのに、その行動は乱暴な口調とは対照的に冷静だった。

「――――…そう。そうだったのね」
「ああ?」
「元から、こうするつもりだったんですね」

 シアンの服を握り締め、私は歯を食い縛った。

「兄様は、初めから王国兵から逃げる気なんてなかった。私とあなたを引き合わせる為だけに、この町へ来た。そして、捕まった。そうでしょう…?」
「お前があいつに何を聞いてたのかは知らねぇけどよ。俺の『約束』にあいつは含まれてねぇぜ?」
 
 ――――ああ、私は。何て情けなくて、愚かで、最低な人間なのだろう。

 ルイスがしていた覚悟に気づかなかった。私が彼に縋る度に、あの人は一体どんな気持ちでいたのだろうか。
 私だけを逃がす為に、ルイスは動いていた。だから、武器を取らなかった。あの教会の屋上へ行くことこそが彼の目的だったのだとしたら、全て辻褄が合う。逃げ場のない屋上へ走っていく間、彼は一体――――何を思ったのだろうか。私の唇に触れた時、ルイスは何を考えていたのだろうか。
 捕まれば、ただでは済まされない。叔父様が、王位継承権第一位のルイスを生かしておくとは思えなかった。

「どうしてなの…兄様…」

 私だけ一人生き残ったところで、状況は何も変わらない。前へ進むことも、引き返すことも出来ないというのに、今更こんなのは酷すぎる。
 ルイスのいない世界で生きていくなんて、私には出来ない。私にとって、彼は私という人間を作る全てだったのだ。

 私のせいで、国から追われた兄。私が巻き込んでしまったのだ。
 あの城での爆発も、私の命を狙ったものだった。カーネット、バール、リュストの三国が優先していたのは私の暗殺。どう考えても、あの日私が殺されていれば、ルイスも陛下も奪われずに済んだのに。
 

 

-SF・ファンタジー・ホラー
-, , , ,


コメントを残す

おすすめ作品