幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

推理からはじめよう 8

   

 15年前―七海出生が語られる。源次郎の身勝手さが浮き彫りになる。

 七美がいまどんな状況でどんな思いで一人娘と決別する決断をしたか、飛田が代わって話し聞かせる。

 七海が犯した罪が、いかに愚かであるかを諭すようにだ。

 探偵でも知り得ていないことを七海が話す。そしてそれは堀部家全員が認知していることだった。

 

 15年も前の話になる。源次郎は社長から会長へとなった。それはある意味、陶滋郎にすべての実権を譲り渡し、自分は引退をしたように余生をおもしろおかしく暮らそうと羽をのばしていたときのこと。

 都内のキャバクラに通っていた源次郎。そこには当時23歳の松原 七美がいた。七海の実の母だ。

 茶髪にウェーブがかかった金髪。身体は華奢だが、病的なイメージはなく張り艶がある健康美な印象だ。口調もタメ口で、敬語はできない。だが、笑顔と勢いのある元気なところが好感があった。そして若さという特権だけで夜の仕事を平然とこなしていた。

 そんなとき、ふたりの過ちははじまる。男女の関係になったことだ。

 源次郎は七美と浮気をし、七海を身ごもったのだ。

 その瞬間、七美のこれまでのギャルなイメージが消え失せ、母親としての母性が目覚めた。

 けっして許されない源次郎と七美とのあいだに芽生えた種。それは儚い定めをたどることになる。

 状況からわかっていた。源次郎はめんどうはみれない。自分の立場がある。会長として引退をほのめかしていたが、陶滋郎だけではまだまだ未熟な点もあるため、会社にはそれなりのポストの座についている以上このことを公にはできない。

 七美は、ひとりで育てます。といってきかない。産むなとはいわない源次郎だが養育費だけは貰ってくれ、と頼むもののそれをいっさい受け取らないのだ。それさえ受け取ってくれれば、源次郎も体裁を守れるし、責め苦に苛まれずにすむ。

 それと、このさきも見放していないことをわかってもらいたいと熱望してもいた。

 父親がいない家族だが、いつしかその事実をしる七海には、すでに父親が他界しているだろう年齢のころに話し聞かせることになる。生活費さえ、後ろ盾があればなんとかなるものだ。というのが源次郎の考えでもあった。

 七海には愛情がある七美。だが、源次郎にたいしては恩を着せたくない。というのが七美にはあった。その意固地な強がりが、ついに七海が3歳のころに崩壊した。

 七美は病院に運ばれ、生死の境にいた。源次郎にすぐ連絡があった。病院の看護師からだ。スマートフォンの着信。発信履歴から名前があがっていたのが源次郎だった。

 この奇跡ともいえる看護師の判断で、七美はこのさき命を救われる。

 七美は反対しようとも、源次郎は七美の身体を心配して費用をあますことなく提供した。

 費用はいまでも支払っている。神奈川県の川崎市にある病院に入院している。

 七美は検査をしたとき、白血病であると診断された。

 絶望する七美。もう生きることができない。人生をあきらめかけたとき、七海を引き取ったのが源次郎の家族だった。

 七美は後ろめたさをこらえて頭を垂れる。

 源次郎はとうぜんのように要望を受け入れた。それが罪滅ぼしと思っているからだ。

 小さな3歳の女の子を連れて堀部家にもどる源次郎は、このときとんでもないことを家族に頼み込んだ。

 妻の瑤子。息子の陶滋郎、とその妻光子。三人に土下座をして、自分が浮気をしたことを告白。その子どもを家族として迎え入れてほしいと。

 それだけじゃない、母親は光子になってもらい、迅、かほこ、の末っ子として家族にしてもらいたい。と懇願した。

 源次郎はいった。「私は祖父として七海を見守りつづける」

 瑤子は激怒した。浮気した挙句、費用を捻出し、その娘を家族として育てる。しかも育ての両親に自分たちの息子夫婦に頼むという神経が信じられないでいた。いくら相手の不幸な展開には同情できても、渦中にあってはならないというのが瑤子の主張だった。

 だれも話すことがなかった。沈黙は続いていた。源次郎はどんなことをいわれようと土下座をやめない。惨めな背中を見下ろしている瑤子、陶滋郎、光子だった。

「わかったわ」

 瑤子は承諾した。その姿を見て浮気を許し費用の捻出を許し、愛人の子どもを家族に迎え入れることを許した。

 瑤子は、陶滋郎に頭をさげた。すべては自分の夫が仕出かしたことであれば、たとえそれが我が息子夫婦だろうと、家族だろうと、筋をとおして頭をさげて頼み申すというのであれば許すしかない。

 陶滋郎も光子も同意せざるを得なかった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
-,


コメントを残す

おすすめ作品

家元 第十部 危機を越えて

   2017/09/22

ノーベットノーペイ

   2017/09/22

見習い探偵と呼ばないで!【番外編・御影解宗のデート】3

   2017/09/22

ロボット育児日記26

   2017/09/21

怪盗プラチナ仮面 11

   2017/09/20