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SF・ファンタジー・ホラー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第44話 船上の言葉

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「わ、私の臣下…?」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

もう、何も――――思い出せない。

 

 

 
「あなたの、父親…?」

 シアンの父親――――それは、私の父親を知る者だ。

「親父のいる島まで行けば、ひとまずお前の安全は確保出来る」
「…島」

 国外へ行くつもりなのだろうか。そうなれば、私はカーネット王国から離れることになってしまう。

「その島は、ここから遠いの?」
「…ああ。遠いよ」

 私はゆっくりと目を閉じた。

「…そうなのね…兄様ともっと…離れてしまうのね」
「…あのさ、お前。もしかして何も聞かされてねぇの?」
「…え?」
「…俺の親父は、お前の兄貴の臣下じゃねぇぞ?」

 ――――それは一体――――どういうことだ。

「では、私の父の臣下ですか?」
「ちげーよ」
「なら一体…あなたのお父様は何者なの…?」
「それをお前が知らないわけねぇだろ?」

 シアンはそう言い、首を傾げた。ぶつぶつと疑問を口にして、船へと歩いて行く。そんな彼の背で、私も首を傾げた。

 おかしい。先程から私達の会話は食い違っている。

「どういうことですか…」
「だーかーら! お前が知らないのがそもそもおかしいんだよ! …だってよぉ、俺の親父はさぁ、
「わ、私の臣下…?」

 この人は一体、何を言っているのだろう。
 私に臣下などいはしない。何故なら私は、城の外へ出たことが今まで一度もなかったのだから。それに、父様の知り合いなど私は一人も知らない。そんな私に臣下がいるわけないのだ。

「私は…知らないわ」
「…ま、それでもいいけどよ」

 何も考えなくていいとシアンは言った。だが、考えてしまう。
 私は一体何者なのか。ルイスは一体何をするつもりだったのか。叔父様は一体私達をどうするつもりなのか。カーネット王国はこの先――――どうなってしまうのか。

「あの船だ。見えるか?」

 そう言われ、彼の頭越しに先を見つめる。
 朝日に照らされた海の上で、船が一隻揺れていた。その乗り口で、老人が切符を確かめている。

「切符は持っているの?」
「おう。船旅はしたことあるか?」
「…いいえ。乗るのも初めて」
「ま、安心しな。あの爺さんは俺の知り合いだ」

 目の前まで着くと、シアンは私を背から降ろした。『歩けるか』と尋ねられたので、小さく頷く。

「遅かったな。出航するところじゃったぞ」
「うるせぇよ」
「…後ろのお嬢さんは…誘拐でもしたのか?」
「はあ!? んなわけねぇだろ! 連れだよ連れ!」
「ほう。まあ何でもいいが…“気を付けろよ小僧”」

 シアンと談笑していた時の声と、僅かに変わった気がした。その違いに目を見開いた私を見て、老人はにこりと笑った。背筋を駆け巡った寒気を押し止めて、私は唇を噛む。

 船着き場の管理をしていると見られるその老人。何か隠しているような気がしたが、私は彼を見て、エドガーを思い出してしまった。

 彼は、無事だろうか。囮となって、私達が逃げる時間を稼いでくれたが、その後の生死はわからないままだ。
 表情の暗くなった私の手を、シアンは躊躇いなく掴み、歩みを進めた。
 

 

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