幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

ブラインド・ウィナーズ

   

様々な分野で自動化が進んだ近未来、ごくひと握りの機械を操る側に回ったエリートを除くほとんどの人は、機械では代替できない仕事に活路を求めていた。中でも製品のモニターなどのテスト要員は決してロボットには任せられないだけに人気が高く、かつより良い人間社会への貢献にもなるということで人気を博していた。

久城 静馬は、私立のエリート養成予備校である地球筆頭大学の高額な学費を支払うべく、医療実験や各種薬品の被験者といった仕事を頻繁に入れていた。生来極度に薬剤耐性が強く、副作用からの回復が極端に早い体質があってこそのチョイスだが、さすがにいくつもの未承認薬を同時に服用し続ける生活にはきつさを感じていた。

そんなある日、久城は佐古口 梨沙子からスカウトされる。梨沙子は、久城よりもずっと濃密なペースで治験を入れているが、まったく体調は悪くないらしい。稼げる秘密を教えて貰おうということで久城は、彼女の秘密の拠点に足を運ぶことに……

 

 ユーラシア大陸の極東と呼ばれる地域の一角。
 注意深くかつ丁重に整えられたその文教都市は、多種多様な学校を擁しており、全国各地、いや、世界中から若者を引き寄せていたが、一方で、都市のコンセプトを支える労働者の姿はほとんど見えなかった。
 しかし、勤労学生が授業に向かう時間帯であっても、各種の仕事が滞ったことは一度もなかったし、その傾向はますます強まっていくと確信されていた。
「仕事」のほとんどは、人ではなく人工知能や産業用ロボットが行っていたからである。
 この街における電車やバス、タクシーに至るまでの全ての交通機関が完全自動運転システムのもとで動いていたし、トラックは、人工知能が搭載されたフォークリスト等と連携して貨物を完璧に扱っていた。
 工場での製品製造や食品調理もロボットの仕事であり、飲食店の給仕と掃除も高級店を除けば人の入る余地はほとんどない。
 校内清掃すら機械に任せている。世界一の学業都市を目指して人工的に作られた町故の特徴、ではあるものの、世界中に同様の傾向はある。
 そしてその点こそが、世界中の若者を極東の新興地区に集結させ、勉学の道を志させる理由でもあった。
 二十一世紀に入ってから加速度的に進んだロボットと人工知能の発展は、世界中の人々に多くの恩恵をもたらした。
 行き先を指示するだけで一切の運転をせずとも、安全確実に目的地に到着できる車や、書類をスキャニングしておけば、オペレーターが一切の計算作業をしなくとも瞬時に数字を出すプログラムが登場した。人が一切汗をかかずとも、食品から工業品までを大量生産してくれるロボットたちの貢献も忘れるわけにはいかない。
 警備から消防、軍備といった危険を伴う現場でもフル活用されつつある「機械の仲間たち」は、行動計画を根本から変えている。
 結局、どれほどリスキーなミッションだろうと、「失われるのは機材≒予算」となれば、実行するのは難しくない。
 こうしたことが重なり、人工知能と機械はあらゆる職場から人の介入する必要性を急減させつつあった。
 しかし、仕事をしなくても良くなったことは、必ずしも個人レベルの問題軽減を意味しない。
 企業や機関が人を使わなくなるということはつまり、人口や経済の拡大に関わらず、人が就職できる場所が減っていくことを意味し、それは労働収入と生きがいの縮小に直結した。
 失業者への保護が薄い国々の市民としてはまさに死活問題だったし、でなくとも、社会から働きを求められずただ生き続けなければならない人がどんどん増える状況は幸福とは言い難い。
 多くの人は、今後もなくなりそうにない仕事に就くことに活路を見出した。

 

-ノンジャンル
-, , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品