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SF・ファンタジー・ホラー

透明の世界 1話「時刻少女」

   

短編集「透明の世界」連載開始。

第1話「時刻少女」

――――少女は刻む。大切な人の時間を。

 

 

 私は長い間、所有者となった人間の時を刻んできた。
 遠い、遠い昔から、ずっとそうして暮らしてきた。
 ある時は興味本位で売られ、またある時は好奇心で破壊され、そしてまた願われる度に形を成して、刻み続けてきた。人間が終わる瞬間を、何度もこの目で見届け、刻み続けてきたけれど、その度に思うことがある。

 人間は、私達のような不可侵の存在とは、進む時間が違うのだと。

 所有者は、終わる時を悟ると、必ず決まって私に願う。『時間をくれ』と。そんなことは無理だ。私にも、他のどの存在にも、寿命を延ばすなんてこと出来はしない。そう伝えても、変わらず望む。願われる。恨まれる。羨まれる。
 うんざりだった。私は人間の人生――――その短く儚い時を刻むことが役目。それ以上のことは出来ない。そんな私のような化け物の一体どこが羨ましいと言うのだ。私に願って、どうすると言うのだろう。
 そんな弱い人間に呆れていたのも事実だ。うんざりしていたのも本当だ。人間になど関わりたくもなかった。だが、『人間の時を刻む』のが私の役目だ。私を所有する人間が息絶えるその時まで、刻むことが私の存在意義だから。

 ――――それなのに。

「ケイ」

 彼だけは、私に願わない。
 時間を増やせと命じない。
 ただ、優しく声をかけてくれる。

「傍に来てくれるかい…?」

 今回の私の所有者は、少し変わった人間だった。自分の時を刻む私に名前を与えたり、服を着せたり、美味しい食べ物を与えてくれた。色んなことを教えてくれた。鬱陶しがることもなく、傍に置いてくれた。一度だって、私を傷付けたことがない。

 言われた通りに傍に寄る。満足そうに笑って、彼はもう一度、口を開いた。

「…ケイ」

 伸ばされた手は、私の腕へと触れる。段々と滑り落ちるように、私の手に辿り着く。そうして握られた手は、私の無機質な手にじんわりと温度を与えた。

「君の手は、相変わらず綺麗だね。変わらない…昔のままだ」

 彼の手は、皺だらけだった。真っ白になって、血が通っているのかも怪しいほど、透き通っている。最早、動くこともままならなくなった彼は、ここ最近ずっとベッドで横になっていた。もう、終わりが近いことも悟っているのだろう。それでもこの人は、決して私を利用しない。優しい人間のままだった。
 

 

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