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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第45話 慣れてはいけない

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「どうしてそこまで兄様との約束に拘るの!?」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

もう、何も――――思い出せない。

 

 

 私を殺す為に、爆弾を使うあの手口。別城での出来事と同じだった。それも船の中で、一般人を利用して実行するなんて、正気の人間がすることではない。あまりにも残酷だ。

 私はカチカチと歯を鳴らして、震えた。老婆の遺体に目を向けることが出来ない。酷い死臭と火薬の臭いが充満したこの部屋に、私とシアン以外の生存者は誰一人としていなかった。
 シアンが私の肩を抱き、立ち上がる。

「おい、歩けるか?」
「シ、シアン…」
「とにかく、一旦この部屋出ようぜ。…クソ…ひでぇ臭いだ」
「っう」

 必死で吐き気を堪えて、私は歩き出した。
 
 この船には、私達以外の乗客も乗っている。敵もこの船に乗り込んでいるのならば、爆発の衝撃で彼等だって巻き込まれかねないというのに――――。
 最早相手も、手段を選ぶつもりはないようだ。どうしても、私を生かすつもりはないらしい。ここで、私を殺す気なのだ。

 部屋の外へ出ると、案の定船内は荒れ果てていた。爆発音に驚いた乗客たちがひしめき合い、叫んでいる。

「ちょっと何だったのよ、今のッ」
「沈むんじゃねぇだろうな、この船ッ!!」
「お、落ち着いて下さい、お客様。先程の爆発音については現在調査中でして…」
「調査も何もないわよ! 明らかに爆発じゃない! こんな船、もう嫌! 非常ボートでも何でも出しなさいよ!!」

 乱闘でも起きそうなほど、乗客達は苛立っていた。

「…兵士が紛れてるかもしんねぇし、乗客にも気をつけろよ。わかったか?」
「…うん」
「今の爆発、結構でかかったからな。乗客全員気づいてるはずだ。誰かに何か聞かれても、婆さんのことは言うんじゃねぇぞ」
「…わかったわ」

 私の手を握ったまま、彼は私に尋ねた。

「もしかしてお前。人の死に様見たの、初めてだったのか?」
「…ううん。見てきた。たくさん、見てきたよ」
「…………」

 シアンは何も言葉を返さなかった。

 船内を騒がしく動き回る人々は、時々私達の体に遠慮なくぶつかっていった。シアンは前髪に隠れた額に青筋を立てると、私の手を引いて、人混みに構わず歩き出す。大方おおかた、彼も苛ついているのだろう。ただでさえ騒がしい船内で、道を塞がれているのだから。だが、その騒がしさのおかげか、シアンの担いでいる長刀には誰も目を向けなかった。

「港からかなり進んだよな。今頃海の真ん中かー?」
「…うん」
「ここで船が沈んだら、かなりやばいな」
「…そうかも」
「…………」
「ごめんね、シアン」
「あ?」
「…ごめんね」

 今ここでこの船が沈んでしまえば、彼も――――この船の乗客も皆巻き込まれる。私のせいで、また多くの命が失われてしまうだろう。

「おい、レイシー。お前一体何考えてやがる」
「…また、私のせいだなぁって」
「…………」

 私の答えを聞いて、シアンは眉を寄せた。騒ぎから少し離れた場所で立ち止まると、彼は私を見下ろした。
 

 

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