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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第46話 私の言葉

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「カーネット王国は、最早血に塗れた。あなた達が始めたのよ」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

もう、何も――――思い出せない。

 

 

「シアン…」

 彼は私の言葉に従い、兵士を殺さなかった。手加減をしていては、自分が怪我をするかもしれないのに、それなのに彼は、兵士達に刃を突き刺さなかった。
 私の言葉がそうさせている。
 そうわかった途端に、喉の奥に熱を感じた。それは、私の中を駆け巡る。言い表せない感覚に、私は拳を握り、シアンと兵士の戦いを見つめていた。
 前触れもなく、あの砂嵐がかかるような眩暈が、途端に私の脳を支配する。ザザザ、と靄がかかる中、シアンの金色の瞳だけが色を宿していた。

「ッ」

 シアンが戦っている姿をこのまま黙って見ていてはいけない。そんな気がした。
 二人目の兵士をいとも簡単に薙ぎ倒すと、シアンは私へ振り返った。その目はまるで、私に今何が起きているのかを見透かしているようなそんな視線。何も言わず、ただ、肩を上下させて呼吸を整えている。彼は敵の血なんて一滴も浴びてはいないのに、それなのに、私には彼が――――返り血に塗れているように見えた。どうしてか、そう見えた。

「シアン」
「…おー」
「あなたは、“誰”?」
「…!」

 私が胸の辺りを押さえてそう聞くと、シアンは少しだけ驚いて、そして、ルイスのように優しく微笑んだ。彼の流れるような黒髪が、船の上で潮風に揺られていく。

「――――俺も、わかんねぇよ」

 シアンはそう言い、前へ向き直った。その瞬間、倒れている兵士達を踏みつけて、ぞろぞろと数十人の兵士が現れた。私は小さく悲鳴を上げて、ルイスのくれたネックレスを握った。シアンはその状況に、何も言葉は放たない。ただ、卑屈に笑った。

「…国の裏切りもんが、揃いも揃って姫様狙うたぁ、いい度胸だよ本当にさぁ」

 怯むことなく長刀を構えたシアンを敵と見なした兵士達は、次々と雄叫おたけびを上げては、彼に突進していく。それを鼻で笑い、シアンは次々と兵士達とぶつかり合った。私はそれを遠巻きで見つめて、荒い呼吸を繰り返す。

 いつもなら数分で消えるあの砂嵐が、全く消えない。

「っう、あ」

 苦しさと、肺を満たす潮の匂いにむせ返り、私は涙目でシアンを見つめる。
 嘘を吐かないと言った彼は、私を守る為にああして戦ってくれている。それなのに、私は何も出来ないのか。こうして、苦しんでいるだけでいいのか。
 ――――だめだ。このままでは、彼は“死んでしまう”。

「シ、アン」

 だが、一体どうすればいい。

「! レイシー!!!」
「っ!」

 思考回路が爆発しかけたその時だった。いつの間にか傷つけられた右腕で、シアンは長刀を力いっぱい投げ飛ばした。――――私の方へと。それに目を見開いたのも束の間、その刃の先端は、私の喉を狙っていた兵士の頭に生々しい音を立てて突き刺さった。一瞬で絶命したその男の亡骸を見て、私はハッと、シアンのいる方へと顔を向ける。
 

 

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