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同胞代価は一ダルソンで

   

歴史発掘と遺跡探査を専門に行う会社を経営して、社会的にも大成功を収めているスラダー・シムス。だが、彼の会社は一年前までまったく利益を上げられていなかった。

業績が通常なら有り得ないほどの回復ぶりを見せた秘密は、会社で働く「吸血鬼」たちのグループだった。彼らは長命を持っていることを除けばほとんど人間と変わらないが、何百年も生きているだけあってとにかく昔の事に詳しい上、流浪の生活の経験上各地の地理にも明るかった。だから発掘を生業とするシムスとしては、彼らの記憶を辿って作業を進めるだけで良かったのだ。

シムスは、苦境の折に吸血鬼たちに出会ったことに感謝していた。

しかし、彼らの「掟」として、同胞ではない相手と一年以上生活することを避けるというものがあり、やがて吸血鬼たちが家を去ってしまうという現実に直面してもいた。

そんなある日シムスたちは、自宅の蔵の中から、曽祖父が書いたと思われる日記を発見する。

なんと彼もまた吸血鬼と一緒に暮らしたことがあり、別れ際に、彼らから同胞と認めて貰うに十分な代価を教えて貰っていたのである。

その金額は、既に十分な蓄えのあるシムスにとって支払えないものではなく、これでずっと彼らに協力してもらえると思っていたのだが……

 

「いやあ、実に素晴らしいですな。お話を聞いているだけでワクワクしてきますよ。何でしたら、次の発掘作業にスタッフとして出向きたいぐらいです」
 一通りのインタビューを済ませた地元新聞の記者が、ニコニコしながら述べてきた。
 これでようやく紙面が埋められるぞという安堵が含まれてはいるにせよ、本心からの反応だなと、ソファーに腰掛けたスラダー・シムスは笑い返しながら判断しつつ応じた。
「もちろん、大歓迎ですよ。きっちり求人をご覧になって面接にいらして下さればね。ただ、一つ覚えておいて欲しいのです。私は幸いにしていくつもの成果を挙げることができましたが、本来、遺跡探査というのは極めて空振りが多い仕事です。大金をはたいて、まったく発見なしというのも珍しい話ではありません。だからこそ、小さな仕事、確実に出物がある現場に出向いて虫や貝の化石を取ってくるといった積み重ねが大事なのです。大望を抱くからこそ着実に細かな作業に邁進する、どんな仕事でも言えることかも知れません。失敗続きだったからこそ、実感として分かるのですよ」
「す、素晴らしい。そのあたりのお話も、また次の機会にお願いしたいですね。ウチの独占でっ。……じゃ、またデスクに怒られたくないので、今日はこの辺でっ」
 まだ二十代に見える若い記者は、軽くはあるがイヤミのない笑みを浮かべて去っていった。
 恐らくすぐに原稿を書かねばならないのだろう。
 彼の勤務する「ナインリバージャーナル」は今時珍しく、AIによる下書きを導入していない。だから、一応のゲラを作るにも記者は会社に戻るかファミレスに席をとるなりして最初から文章を書かねばならない。
 もっともそうした手間こそが、今なおネットと渡り合えるタウン紙としての地位と質を守るための秘訣なのかも知れない。
「帰り際にコーヒーを出さなくて正解だったな」
 シムスは取材用に首に巻きつけたネクタイを緩め、シャツのボタンを外してソファーに身を預けた。
 普段の彼の仕事からしてまるで縁のない出で立ちをするのは、取材用の装いとしてめっきり慣れたとは言えやはり疲れる。
 成功したことで生じる「対価」の一つではあると思うが、やはり人前で喋るより、土と向き合い、格闘している方がずっと性に合っている。
 何しろ、十五になるかならないかのうちから毎日そうやって過ごしてきたのだ。
 シムスの生業は、遺跡探査だった。子供の頃に読んだ冒険譚や、代々の冒険好きだった親たちに聞かされた色々な話に心を惹かれて調査スタッフの一員として加わり、いくつかの紆余曲折を経て今に至る。今でも古代のロマンに惹かれたままだ。
 もう四十代半ばになるが、結婚よりも地下に埋まっている遺跡の方ががずっと魅力的に思えているし、恐らく十年後もその気持ちは変わっていないだろう。
 そういう人間だからこそ、若くして稼ぎながら経験を積み重ねることができたし、仲良くなった発掘仲間から半ば請われる形で会社を設立することもできた。
 しかしその後すぐに、探査を「商売」にする難しさを思い知ることになった。
 どこに埋まっているか分からない遺跡や財宝の類を掘り当てるにあたっては、過去の資料を読み込んで目星を付けるという作業が不可欠だが、母国語や現代語ですらないことが多い専門的資料を読解し活用するのは、ずっと発掘現場での作業に終始してきたシムスにとっては極めて大変な仕事だった。
 翻訳者を雇っても訳者に遺跡に関する知識がないことが多く、結局シムスが情報の取捨選択を続ける形になった。
 そして、当たりをつけたはいいものの実際に掘り当てるには長い期間と忍耐力が必要であり、実際に成果と利益を得るには巨額の費用が不可欠だった。
 貯金はあっという間になくなり、金融機関からの融資に頼る状態に陥り、事態が悪化するにつれそのラインからの資金も渋くなっていくといった状況だった。
 やむなく他の発掘現場へのバイトなどで少しでも稼ごうと目論むも、現場仕事では膨れた借金をチャラにすることなどできず、大発見という夢からはどんどん遠ざかっていた。
 だが、もう会社を畳んでしまうしかないか、と、覚悟し始めたある日、シムスのところに予期せぬ来訪者があった。

 

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