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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

卵と探偵

   

 

☆☆☆

 
「お待たせしました」
 入り口で言われたとおり待っていると、辻野みきがパステルピンクのトートバッグを下げてやってきた。ニットドレスのアイボリーと春にしては重くなりがちなネイビーのトレンチコートを見事に着こなしている。極めつけは小柄な身体と身長。先ほど壇上にいたときは分からなかったが、百五十センチを少しこえるくらいだ。
(ちっさいなあ。可愛い系だ)
 色んな意味で驚いた珠里だったが、当然のように辻野みきは気にしていない。なにも言わず先んじて歩き出すので、あの……と声をかける。どこへ行くのかと口を開きかけると、不機嫌に振り返った。馬の尻尾のように一本結びがブンッと揺れる。
「編集さんは一足早く帰ってもらいました」
「いやそうじゃなくて」
「ロールケーキは好きですか?」
「え、ああ、まあ」
(人の話聞けよ!)
 いらっとした珠里だったが頷いておいた。
「ちょっと歩くんですけど、美味しいロールケーキのお店があります。イートインスペースもありますからそこでお話ししましょう」
 ノジリさんのことを。
 美しいアーモンド型の眼差しは厳しい。
 辻野みきはあくまで珠里を敵だと思っているらしかった。誤解を解こうにも吹っかけたのは珠里であったし、どう状況が転ぶか分からない。黙ってついていくことにした。
 歩くのは少しと言ったにもかかわらずたっぷり二十分は歩いた。
 早くも珠里が面倒くさくなっていると、「ここです」と【まるりんロール】と丸っこい看板を指差した。
(すげえネーミング)
 【まるりんロール】は店の軒先まで統一性のない雑貨が置かれてごちゃごちゃしている。入り口などあってないようなものだ。ロールケーキの店と言ったからおしゃれな雰囲気をイメージしていたが、端から見ても古ぼけた店は看板があってもなんの店か分からない。強いて言えば昔ながらの甘味処プラス雑貨屋だろう。
 辻野みきは平然と入って行く。
(あんまりこういうの気にしない人なんだな……)
 珠里も続いて中に入ると、すでにイートインスペースに陣取った辻野みきは桜ロールケーキとブレンドコーヒーを珠里の分まで注文していた。
 センセーと会ったときとは別の意味でこめかみが熱くなったが、ぐっと堪える。
 いったいなんのために堪えているのかもはや分からなくなっているのだが、来てしまった以上、最後まで見届けることにした。
 背もたれの小さい椅子に腰を落ち着けると、さっそく切り出す。
「……それで、ノジリさんについて訊きたいんですけど」
「それより先に、こちらの質問に答えてください。ノジリさんとどこで会ったんですか?」
 手短に、かつ美人局のことははじいて答えると、辻野みきは、肩を揺らした。どうやら笑ったわけではなく、溜息をついたらしい。
「センセーはご無事だったんですね」
「……は?」
 ご無事もなにも、あたしに推理ごっこ仕掛けてますよと言いたかったが、それよりも早く辻野みきが、意外な爆弾を放った。
「え? あの……センセーとの関係知ってて僕に言ったんじゃないんですか?」
「ぼ、僕ぅ?」

 

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