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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第48話 受け入れる、その悪意も全て

   

信じた者の為、幼き王女は陰謀と悪意に抗い、立ち上がる。
王女と王子の運命を駆ける王国ファンタジー。

「彼にもう、その剣を向けないで下さい。斬るなら、私を斬りなさい」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

もう、何も――――思い出せない。

 

 
「だめ…こんなのは、だめよ」
「っ、く、そ」

 シアンもそのことに気づいたのか、舌打ちをして、傷ついた体を引きずった。何本矢をその身に受けようと、どれだけの血を流そうと、シアンは決して膝をつかなかった。そんな彼を見て、私は叫ぶ。

「やめてっ…! もうっ…もう、その人を傷つけないでぇええええッ!!!」

 やめて――――……。

 シアンに向かって伸ばした私の手は、あっさりと兵士によって掴み取られてしまう。抵抗する間もなく、そのまま勢いよく床に叩きつけられた。

「っ…ぅ」

 体中に走った痛みと息が詰まるような衝撃で、生理的な涙が目尻を伝う。その瞬間、シアンの目が極限にまで見開かれた。

「てめぇ…何してんだ…?」

 シアンがゆらりと動く。長刀を体の一部のように持ち上げて、彼は倒れた私の元へと歩み寄って来た。そんな彼の背にエイビスは躊躇いなく剣を翳す。

「取り乱したか? 少年よ」
「あんたに用はねぇよ、消えろ!!!」

 ダァアアアアアンッ!!!

「!? ッ、な」
「消えろって言っただろうがぁあッ!!!」

 エイビスの首に、シアンの足が直撃する。勢いを込めたまま、シアンは彼を蹴り飛ばした。だが、エイビスは即座に起き上がり、剣を取る。シアンの呼吸が段々と乱れていく。激しい動揺の中で戦っている。そんなように私には見えた。

「…シ、シアン…?」

 痛む脇腹を押さえて、私は上半身を起こした。
 シアンの様子がおかしい。その目に私は映っていない。敵への一撃の威力は、先程よりも格段に上がっている。だが、それでは体力の消耗が激しい。一体何が彼の動きを鈍らせているのだろうか。そこまで考えて、私は拳を握り締めた。

 ――――シアンの負担になっているのは、間違いなく私の存在だ。

 兵士が近くにいる限り、彼は派手に戦えない。私を気にかけながら、王国兵を相手にするなんて出来るわけもない。命がいくらあっても足りないはずだ。現に彼の傷は増していくばかり。
 私は首を横へ振り、戦い続けるシアンへ投げかける。

「もういいです…もういいから…やめて…お願いっ…」

 自分の傷など気にも留めず、シアンはエイビスに掴みかかり、兵士を斬り、咆哮を上げた。
 私の目から、涙が滑り落ちる。蹴られた箇所が痛いわけではない。正気を失ったかのような彼を見ていると、不思議と涙が零れていくのだ。

 きっと、もう、この戦いに意味なんてない。
 私を守ることに、意味なんてないのだ。彼が死にかけてまで、するべきことではない。
 

 

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