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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season17-6

   

 小柴と御影は新藤氏と佐脇氏の自宅へそれぞれ訪れた。

 新藤氏は自分で犯した罪の意識にテレビ出演を控え謝罪をするつもり、そしてゴーストライターという偽りの楽曲が手から離れてどんどん世界に広がっていくのを恐れたが末の記者会見だった。

 だがその心意は本心なのか、御影のプライベート・アイも疑念はなかった。
 
 

 佐脇氏は不在だったが、奥さんが対応した。しかし疲労困憊の顔で御影の鋭い問いにうんざりしていた。

 が、御影はさらに小細工をして胸の内を引き出そうと、小柴が仕掛けた。

 

 呼び鈴を押す小柴。その姿は躊躇いはいっさいない。なぜそこまで毅然としていられるのだろうか。

 相手は犯罪まがいのゴーストライターだ。

 扉が開いた。「はい」弱々しくか細い声の男がでてきた。記者会見のとき画面でみた男だ。

 新藤 真通、MUROMATIの作曲家。

「わたしたちは探偵社の者です。あなたにインタビューさせていただきたく伺いました?」仏頂面の小柴の棘のある声だ。

「アポイントなしで来られるのはひじょうに困るけど…」ちらっと御影を見据えた新藤氏。「まぁいいでしょう。どうぞ」

 意外と不愛想で笑顔ひとつ浮かべない。事情が事情なだけでゴーストライターの話題については敬遠しているのはわかる。

 だが招き入れるのと同時に御影に視線をむけたのはどういう了見か。

 リビングに通された。グランドピアノが中央にあり、作曲用のパソコンや機材が揃っている。

「さすが音楽家って感じの雰囲気だ」これだけでもこの男が下卑た真似をしたゴーストライターというのが信じられない。

 ソファにすわり高級そうなテーブルを挟み新藤はすわった。

「それで、あなたたち探偵がどんな理由でわたしのところに?」新藤は紅茶を入れてくれた。

「わたしたちはJ-Classic音楽事務所の社員から依頼されてきました。佐脇氏の聴覚障害について、あなたがそれを疑念を持ったということをお聞きしまして…佐脇氏に印税や権利を剥奪することの裏付けをとるため新藤さんから事実を確認しにきました」

 小柴は淡々と表情を変えずにいった。これほど毅然とした態度をとるのは小柴の心情が穏やかではない証拠でもある。

 MUROMATIという神がかった曲を下品なまでに穢した事実を公表した一人であるからだ。

「そうですか」手もみをしながら何かを誤魔化すような態度をとる、それは癖というものだろう。

 御影はそのしぐさを見逃さなかった。特殊な職業をしている者だからこそ癖が多い。御影は以前氷室から聞きかじったことである。相手の観察が意外なヒントになる。そのため磨き上げられたプライベート・アイだ。

 この一度の対面で新藤氏のことを丸裸にするつもりで観察する。この男はなにかを隠している。

「ぼくも彼には正直困りました。聴覚障害だからっていうから曲を作り上げました。そしたら唐突に世界的に広がりはじめてどんどん知名度があがってしまい、もはやぼくが作った曲ではなくなってしまった。そのことでひじょうに困惑しています」

「ですが、あなたは報酬を得ている。それで満足できずになにかを企んでいるというのがわたくし共の見解です」小柴は遠慮なしにいった。

 新藤氏はそんな睨みをきかす小柴の前で微笑んだ。

「そんなことはないですよ。ぼくは本当に自責の念から正直に公表しないわけにはいかなくなった」

「でも隠し通すことが契約だったんじゃないの?」小柴の目は怒りに満ちていた。

「あなたはMUROMATIという曲が好きなのですか?」新藤は逆質問した。

「ええ、そうです。だからいま現在、宙ぶらりん状態のMUROMATIという曲が可哀想なんです。作曲者の欄が空白になったままで世間は佐脇氏か新藤氏なのか、もしくは合作なのかという疑念のせいで曲が死んでいる」

「新藤さん」御影が口を挟んだ。「あなたはこの先のプランというものはあるのですか?」

 父の見た光景を鵜呑みにするのであれば、すでに芸能界での活動をしているというものだ。

「いえ、どうなるかわからない。大学の仕事はなくなりましたし、音楽活動もしばらくはできないかもしれない」

「俺の勝手な憶測ですけど、ゴーストライターになったことを公表したことですべてを失うことになるとは思わなかったのですか?」

「いろんな記者の方にも同じことをいわれました。でも、いわないわけにはいかない。MUROMATIという曲がもっと大きなものになる気配がありました。作曲者が聴覚障害の佐脇氏であるがゆえにあの曲は想像を絶するまでに世界に響いてしまった。このままでは世界を騙すことになる。ぼくや佐脇氏がすべてを失っても止めることが優先だった」

「そんな身勝手なことで…」小柴はぼやいた。

「なら、このまま抑制しないで進めていったら第二、第三と曲を要求される。そのときまた、ぼくが作曲することになる。ぼくなりの苦悩に苛まれていたんだ…」新藤は少し声を張った。穏やかな見た目に感情がこぼれたように怒気が混じっていた。

 御影と小柴はその厳かな態度の新藤氏を黙って見つめていた。

「すいません、少し取り乱しました。でもぼくは後悔はしてません。それに仕事は失ってもテレビ出演が多く依頼がきてます。そこで世間に謝罪を込めていこうと思ってます」新藤はにやりとした。

「それは報酬がまた割といい値だからですか?」小柴は具体的に切り込んだ。

「いえ、無償ですよ。もちろんね」

 小柴は目を丸くさせた。

 

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