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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第50話 沈みゆく夢の中

   

海に沈み、夢に沈んでいる少女。
彼女は固く閉じた拳に、かつて誓った。
――――奪われた全てを、取り戻すと。

~第1章 カーネット王国編 完結。~

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編<完結>』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

※次回は、前章のあらすじを加えた新章第1話が更新されます。

 

 

***

 そこは、とても暗く、それでいて静かだった。

 幾つかの蝋燭が足元を薄く照らしているだけの殺伐とした空間で、決して広いとは言えない面積だ。光が差し込む窓もなく、石の隙間から冷たい空気だけが行き来を繰り返している。
 この部屋の出入口は一箇所のみ。だが、鍵穴もなければ、ドアノブも付いていない。内側から扉は開けられないようになっている。まるで、牢獄のようだ。周囲の壁も、天井も、床でさえも、全てが石で固められていた。
 そして、その部屋の中央には、腐りかけている木製の椅子が一脚だけ置いてあった。椅子に座っているのは、まだ成人も迎えていないような容姿の、十五、六歳ほどと思われる少年。
 ――――かれこれ三日以上は経っただろうか。
 少年は途中から日を数えるのをやめた。彼は知っていたのだろう。自分がこの場所から解放される日は、当分来ないということを。

 どうやらこの牢獄は、彼の為に用意された場所らしい。

 身体中に鎖を巻かれ、太い縄で手足を椅子に固定されているその姿は、まるで重罪人だ。薄暗く、蝋燭の火だけが頼りのその空間で、少年の金色の髪が一層美しく闇に浮かぶ。

 ――――ジャラッ

 ふと、少年の首に巻かれた鎖が音を立てた。その伸びた前髪の奥で、緑色の瞳がゆっくりと開いていく。耳に付けられている青い石のピアスが、寂し気に鈍く光った。

「――――……?」

 彼の乾いた唇が、そう刻んだ。女性の名のような響き。掠れた声でその名を口にすると、少年は前を見据えた。
 焦ったようなその表情と、曇った瞳。彼は何かを感じ取ったかのように、目を見開いていた。

「……どこにいる……」

 その瞬間、少年の瞳の色が『変わった』。

 部屋の隅の埃が舞い上がる。弱弱しかった蝋燭の火が大きく左右に揺れた。少年の髪が舞い上がる。何かが起きると思われた次の瞬間――――。

 パンッ!!

「…………」

 弾かれるような音を立てて、その現象は治まった。舞い上がっていた埃が再び地に落ちる。
 異変を示すように、少年の体に巻きついている鎖が激しく光り始めた。点滅を繰り返すそれを見て、少年は唇を歪める。
 彼は、。――――この状況で、見下すように笑っている。

 ぎぃいっ――――

「…………」

 そして、軋んだ音を立てて、扉が開いた。少年はそちらへ視線を向ける。部屋へ足を踏み入れて来た人物を見て、少年は一瞬だけ笑みを崩した。

「……やはり、ご無事でしたか。あの混乱に巻き込まれてしまわれたのではないかと思っておりましたが、さすがですね。随分心配をしたんですよ」

 扉の向こうから現れたのは、長い黒髪を一つに束ねた長身の男。暗闇を照らすランプを持つその手は、僅かに震えているようにも見える。それが怯えか、怒りか。その表情を見れば、誰にだってわかるだろう。その男は、いるのだ。目の前の無抵抗な少年に。身動き一つまともに取れない彼を、それでも尚恐れている。

 少年は男を見て、にこりと笑った。貴族の子息のように整った顔立ちだ。男と面識があるのか、少年はそのまま言葉を続けた。
 

 

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