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アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第50話 沈みゆく夢の中

   

 
「…この鎖。随分丈夫じょうぶに出来ているようですね? 

 少年は鎖を顎で示して、そう言った。
 『叔父』と呼ばれたその男は、緊張を隠すかのように、虚勢の覗いた笑いで、少年を見下ろした。

「あなたをここへ閉じ込める。その為だけに作らせた特別製の品だ。効果がないと困ります」

 少年の片眉が上がる。

「……まさか、陛下の部屋に立ち入ったのか…?」
「…………」

 男は答えなかった。だが、その沈黙が最早答えなのだ。

「なるほど。ご存知でしたか、全て。これなら納得がいきます。だが、わからないことがある」
「…何でしょう」
「何故、僕を殺さないのですか」
「まだ確信がありませんからね。あなたがという確信が」
「…………」

 少年と男が向かい合う。

「…その話をどこかで耳にした。だから別城での騒ぎの時、僕は暗殺対象にはならなかった。そういうことですか?」

 椅子に縛り付けられているにも関わらず、少年の目に怯えの色は見えない。

「そんな理由で僕を生かしているのか、あなたは。――――馬鹿馬鹿しい」

 口元には笑みを、その声には嘲笑を含み、彼は男と視線を合わせた。男は少年の瞳を見て、反射的に恐怖を感じ、後退る。

「では、あなたが一番殺したい相手……――――僕のは、今どこにいる」
「そんなことが知りたいのですか? ……いいだろう、教えて差し上げよう」

 男は面白がるように唇を吊り上げた。少年はその表情を見て、ハッと目を見開く。

「姫様は、船で逃げようとし、失敗。海に落ちたそうですよ」
「…!!」
「あの小さなお体だ。既に魚の餌にでもなっているでしょう」

 少年の零れんばかりに見開かれていた瞳が、細められる。男の言葉を聞き、少年は尋ねる。

「……は、上がっていないのですね?」
「…? まさか、。あなたは姫様が生きていると…? ハッ、どうかしている。船からあの冷たい海に転落したのですよ? 生きているわけがない!!」

 だが、それでも少年の瞳は何かを見据えていた。底知れぬその目に、男は焦ったように言葉をかける。

「…いい加減諦めたらどうですか、王子」
「あなたこそ、いつまでその虚勢とまがいものの権力が続くと?」

 少年のその言葉に、男の目が見開かれる。

ッ!!!」
「だが決して、あなたは王にはなれはしない。資格がないんですよ、叔父様。あなたもわかっているはずだ」

 少年は静かに、そして諭すように男に言う。

「では、姫様にはその資格があると?」
「ええ、もちろん。……――――これから、あなたが壊そうとしているこの国の行く末を、よく見ているといい。これで終わるものか。これが終わりなものか」

 少年は首に巻かれている鎖を物ともせずに、男に顔を近づけた。鎖の放つ光が強まっている。再び部屋の空気が変わり、今度は蝋燭の火が消えた。男の持つランプだけが、部屋を照らす。
 互いの顔を見合わせて、少年は再び笑みを浮かべた。

「彼女は死なない。いつか…僕達のどちらかの喉笛に剣を突き立てる」

 にこりと笑って、少年は男から顔を離した。男は逃げるように少年に背を向けると、そのまま部屋を出て行った。冷汗を拭う男の姿を思い出して、少年はくすくすと笑う。

「何せ、あの子にはとびっきりのをつけてあるからね」

 一人、部屋の中でそう呟いた次の瞬間、少年は表情を消し去った。

「――――僕の王女は、『神に愛された子』だ。あなたごときに殺せはしないさ」

 暗闇に沈んでいきながら、少年はそう口にして、瞳を閉じた。

「そうだろう…? エリザ…」
 
 

 

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