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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

あしたになれば〜前編〜

   

今日も隣に住む夕実さんに、作りすぎたおかずをおすそ分けしてもらった。いつも優しい笑顔を浮かべる彼女の秘密を知ってしまったのは、小さな偶然の重なりだったのだが……。

前・中・後編でお送りします。
今回はいつもと違い性描写はありませんので、一般作品として公開いたします。

 

「あの、山崎さん……よろしかったら、これどうぞ……少し作りすぎてしまったので」

 いつものように優しい笑顔を浮かべる夕実さんは、ラップを被せた小皿を差し出した。中身は美味しそうな肉じゃがだ。

「すいません、いつも頂いてばかりで……」

「いえ、いいんですよ。私、いつも作りすぎてしまって。一人で食べきれる量じゃないのに……バカですよね、ホントに」

 夕実さんはそう言いながら、再び優しい笑顔を浮かべた。
 隣に住む松本夕実さん。今年の春に引っ越してきてから、三ヶ月になる。僕が住んでいる部屋の玄関を開けると、すぐ目の前が夕実さんの部屋だ。隣同士だが、部屋の玄関は向き合う形になっていた。あまり詳しく聞いた事はないが、彼女も僕と同じで、大学へ通っているらしい。どこの大学に通っているのかは分からない。というのも、顔を合わせれば挨拶をする程度で、彼女とはあまり親しく話をしたことがないのだ。話をしてみたいなと心の中ではいつも思っているんだけど、目の前に夕実さんがいると言葉が出てこない。同年代の女性と話をするなんて、僕には無理な話だ。僕は女性と話をするのが大の苦手なのだ。

「あの……どうかしました?」

 夕実さんに話しかけられ、ドキッとした。夕実さんのことを考えていたので、途中で会話が途切れていたのだ。

「あ、何でもないです……肉じゃが、ありがとうございます。それじゃあ」

 慌ててドアを閉め、鍵をかける。玄関の扉に背中をぴったりとくっつけ、ため息を一つ吐いた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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