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透明の世界 2話「人間用のコンビニはどこですか?」

   

短編集「透明の世界」

第2話「人間用のコンビニはどこですか?」

――――香島。あの男との出会いが私を変えたのかもしれない。

 

 
「ええと…ここが一番近い薬局で、あそこの八百屋は野菜が安い…んだっけ? あれ…? ……まずい、もうわからなくなった」

 私は商店街と道路の境目で頭を抱えていた。それに、商店街とは言っても名ばかりだ。ほとんどの店はシャッターが下りているし、辛うじて開いている店も品物が少ない金物屋程度。活気のある飲食店やその類いは全くと言っていいほど見受けられなかった。

 この辺りに引っ越してきて、今日で三日が経つのだが、未だに慣れない。最初の頃は十八歳にして初めての一人暮らしに心を踊らせていたけれど、今となってみてみれば、やめておけばよかったとそう思う。

 部屋の中には山積みの段ボールが幾つもあるし、台所で料理をする気にもなれず、インスタント食品ばかりを口にしている毎日だ。
 引っ越し業者と荷を下ろしながら、話をしているまではよかったのだが、いざ部屋で一人きりになると、片付けるものばかりが目についてしまい、その内放棄した。元々部屋を整理する習慣がなかったせいか、酷く億劫になってしまったのだ。――――言い訳に過ぎないが。

「バイト先…探さないとな」

 口に出してみて思ったのだが、こんなところにアルバイトを雇ってくれるような店が、果たして存在するのだろうか。

 この町も一応は都内なのだが、寂れていっているのが見てわかる。だが、新たに別の場所へ引っ越すことは出来ない。私にはもう、この町以外に居場所はないのだ。
 空を見つめて、溜め息を一つ。
 ――――そこで、目を見開いた。

「えっ」

 そして、急いで視線を戻す
 商店街と道路の境目。その向こうに、確かにある。先程まで全く目につかなかったことに驚きつつも、私は道路を横断し、その前に立った。

 『コンビニ』だ。この辺りにはまずない、二十四時間営業の。よく見かけるチェーン店舗のコンビニではないが、これは間違いなくコンビニだ。

 まさか、と言う思いとありがたさで、涙が溢れてきそうだった。アルバイト募集の広告もしっかりと貼り出されている。私は液晶型の携帯端末をリュックから取り出し、店の電話番号を登録した。
 明日の朝にでもかけてみよう。

「探してみれば、結構あるのかもしれないな」

 明かりの点いている店内を、外からそっと覗き込む。
 陳列されている商品も充実しているし、特にこれと言って問題はなさそうだ。地域密着型のコンビニ、と言ったところだろうか。入りやすそうな雰囲気なのだが、一つ気になる点がある。

「…人がいない」

 客はおろか、店員すらいないようだ。棚の整理でもしているのだろうか。
 ――――入ってみよう。

「…よしっ」

 面接に来たわけではないのだから、気軽に立ち入ってみよう。あくまでも私は客だ。インスタント食品ではなく、たまには惣菜とおにぎりでも買って食べようじゃないか。

 明るい気持ちと少しの緊張を抱えて、私は自動ドアの前に立った。そして、左右に開いていく硝子がらすの向こうへと足を踏み入れる。
 店内に人の気配はなかった。空調の音と、どこかで聞いたことがあるような音楽が流れているだけ。

「入ってよかったのかな?」

 何だか不安になってきてしまう。
 店内を彷徨きながら、私は項垂れた。

 もしかして、この辺りでは、レジをそのままにして席を外しても問題ないのだろうか。――――いや、そんなわけない。

「これじゃお会計が出来ないな…」

 綺麗に陳列されたおにぎりを見つめていた、その時だった。

「梅干しはお好きですかな?」
「ぅわああああああッ!!!?」

 頭の上から聞こえてきたその声に驚き、咄嗟に飛び退いた。その衝撃でパンの棚に左半身を強打してしまう。ごろごろと個包装されたパンが床に落ちていった。

 

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