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アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第2話「掴んだ虚空」

   

エリザは自身を飲み込んだ海を見つめて、宙を掴む。

「ずっと…そこにいたのね、兄様」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
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新章 第2話「掴んだ虚空」

 

 

***

「お姉ちゃん、もう起き上がれるの?」
「…うん」

 キールがにこりと笑って、私の傍へとやって来た。そんな彼に、私は小さく頷く。

 この少年、キールは、先月八歳になったばかりだという。
 私よりも幼い少年だ。彼は私が目覚めるまでの間、ずっと傍で様子を見守ってくれていたらしい。だからなのか、今でもこうして毎日、私の元へとやって来る。そして、話をかけてくれるのだ。

 二日前に目が覚めてから、私の体は人の手を借りずとも、身を起こせるまでに回復していた。声の方も安定してきている。まだ長く話し続けることは難しいが、最低限の会話は問題なく出来るようになった。
 
「キール、いつもありがとう…」
「…………」

 キールは無言で私のベッドに座ると、下から顔を覗き込んできた。
 だが、しばらくすると、持参した本に目を移す。そして、何事もなかったかのように、そのまま読書を始めてしまった。
 ――――何だったのだろうか。

「キール…? どうしたの」
「…早く元気になってね」

 彼は本に目を向けたまま、私にそう言った。その眼差しは、どこか見覚えがあって、私は胸の辺りに違和感を覚える。
 十分、体調はいいのだけれど。きっとキールが言いたいことは、そういうことではないのだろう。

「お姉ちゃん、ずっとその顔だから…」
「…………」
「…………」

 そういえば、私はもう随分と笑っていないような気がする。キールは幼いながらに感じ取っているのだろうか。私の身に何が起きて、どうしてここにいるのかを――――。

 意識を失ってから今までのことを、私はまだスウェナに何も聞いていなかった。『長』の到着が遅れると言っていたが、一体いつになるのだろう。それまで私は、ここにいていいのだろうか――――。ここがどこなのかも、わからないというのに。

***

「……ん……」

 気がついたら、窓の外は闇に沈んでいた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

「…重い」

 足元に重みを感じ、ゆっくりと身を起こすと、寝息を立てているキールの姿。床には彼が読んでいた本が無造作に置かれている。眠りに落ちた際に手から滑り落ちてしまったのだろう。私は、枕元に置いてあった羽織をキールの背にかけた。そっと、起こさないように足の位置をずらす。
 そして、気づいた。
 足が動くことに。

「今なら…」

 歩けるかもしれない。

 無理をするなと言われてはいるが、出来ると思った時に行動に移したかった。
 意を決して、床に両足を下ろす。久しぶりに自分の足を目に映したような気がする。ぴくぴくと震える足にゆっくりと力を入れていく。そして、棚に置いていた手を離した。

 

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