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アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第4話「アグランド」

   

島長の名を聞き、エリザは思い出す。最後に手を伸ばしてくれた青年の姿を。
――その島の名は、アグランド。

「あなたは、まさかッ」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

新章 第4話「失った時間」

 

 
 キールに手を引かれる形で、私は家の外へ出た。明るい内に出歩くのは初めてのことだったが、不思議と違和感を覚えることなく、進むことが出来た。
 白く塗られた壁に覆われている家々は、海の背景と上手く合っていて、美しい。

「…酷く静かですね。波の音しか聞こえない」
「エリザは海を見たことがなかったの?」
「…一度だけ船の上から見たけれど、穏やかなものではなかったわ」

 耳心地のよい音と塩辛い風を感じて、私はキールと目を合わせると、村を見回してそう呟いた。

 まだ昼間だというのに、あまりにも人気がない。皆、島長のところへ行っているのだろうか。

「今は静かでも、これから賑やかになるよ。長が帰って来たから! ねえ、これからはエリザも一緒に遊ぼう?」
「キール…」

 私に彼等と関わっていい資格なんてないはずだ。この純粋な少年のことも巻き込んでしまうかもしれない。

「…いいえ…私、は…」
「ね? エリザ、お願い…」
「…………」

 キールの小さくなった声に、私は笑顔を向けると頷いた。

「わかりました。そうしましょう」
「! やったぁ!」

 くるくると回り、嬉しそうに笑いだしたキール。だがその瞬間、彼の体が傾いた

「あっ」
「!? キールッ!!!」
「ッ」

 すぐ後ろにあった段差につまずいたのだろう。スウェナが飛び出す前に、私はその小さな手を掴んだ。だが、堪えきれず、私の体も階段に投げ出されてしまう。スウェナの甲高い悲鳴が響いた。

 ――――、落ちていくのか。

 私は目を瞑り、キールを庇うように抱き締めた。
 そのまま階段を下っていくと思われたその時。

何してんだお前は

 その不機嫌そうな声と共に、どさっと体が受け止められる。一体何が起きたのか、と目を開けた私達。そしてすぐに、キールが声を上げた。

お、長!?」
「えっ…」

 この人が、島長――――。

 私とキールを段差のないところへ下ろすと、あからさまに溜め息を吐いたその男。白い建物が多いこの地で、一際目立つ黒い髪。茶の混じらないその黒を、私はどこかで見たことがある。細められた金色の瞳にも見覚えがあった。

「キール! お前さっきどうしたんだ!? 人の顔見て走り出すんじゃねぇよ! 何事かと思うだろうだろうが…全く。追いかけて来て正解だったな」

 キールの頭を乱暴に撫でて笑うその表情は、父親そのものだった。
 私はほっと胸を撫で下ろし、スウェナの方へ振り向く。すると彼女は私の手を掴み、体のあちこちを触り始めた。

 

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