アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第5話「失った時間」

島長から聞かされた衝撃の事実。なんと、海に落ちたあの日から、およそ二年もの月日が経っていた。

「……衰弱もせず、二年もの間、この島で眠っていた…?」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
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新章 第5話「失った時間」

 

 

***

 シエロとスウェナとは、私のいた部屋で話をすることになった。キールには席を外してもらっている。

 テーブルを挟んだ向かい側に彼等が座った。

「本当はね、エリザちゃんがもう少し落ち着いてから話をするつもりだったの」

 スウェナが申し訳なさそうにそう言った。私は膝の上で固めた拳を見て、首を横に振る。

「ありがとう、スウェナさん。私は大丈夫です。だから、教えて下さい」

 一体、何があったのか。
 私は何故、ここにいるのか。
 ――――私は、何をすべきなのか。

「…俺もお前さんに聞きたいことがあるんだ」

 シエロは両手を組んで、悲しむ様子もなく、私に笑いかけた。

「シアンは……俺の息子はどうだった? あいつ口悪いからなぁ……迷惑かけただろ」
「!」

 その言葉を聞いて、私は理解してしまった。涙を堪えて、スウェナを見つめる。だが、彼女の瞳にもシエロの声にも悲しみの色は見えなかった。

 シアンは恐らく、まだ見つかってはいないのだろう。私がいつ頃この島に辿り着いたのかはわからないが、今でもシアンの居場所がわからないのなら、生きているかどうかも彼等には知る術がないはずだ。

 あの荒波に飲み込まれた私が生きているのだ。シアンもきっと助かっている。あの強い男が死ぬものか。
 そう思いたくても、頭が考えてしまう。『最悪の可能性』を――――。

「……不器用で、信じられないほど強くて、けれどとても優しい人だった。『死に慣れるな』と叱ってもくれました」
「叱れる立場じゃないでしょうに……全くあの子は」
「馬鹿だな馬鹿!」

 シアンの優しさと乱暴な口調を思い出し、彼等に釣られて私も笑う。

「――――それに、彼は…、両方の心を守ってくれました」

 兵士達から私を庇い、シアンが叫んだ言葉の数々が鮮明に甦る。

 もっと早くに彼と出会えていたらよかったと、あの時はそう思ってしまったが、同時に私は、出会わなければよかったとも思っていた。

 シアンは約束を破らない。嘘を吐かないとそう言った。ならば、最初からルイスとの約束がなければ、彼が命を危険に晒すことなどなかった。――――私がいなければよかったのだ。

「兵から私を守る為に、シアンは戦ってくれた。何もかもを失った私を…守る為だけに…血を流した。私は彼にろくにお礼も伝えられていないのに……」

 そこまで言って、私は頭を下げた。彼の両親であるシエロとスウェナに。そして、扉の向こうにいる義弟のキールに向かって。

「……迷惑をかけたのは、私です。本当に申し訳ありませんでした」
「エリザちゃん」

 
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