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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

モノクロビオラ 8章

   

 春菜から渡された資料。そこには気になる内容が点在していた。
 誰の何をどこまで信じればいいのか……。

 息をのみ、無実を証明するため、倉耶彰久は立ち上がる――。

 

「思い出せないなら、思い出してもらうしかないけど」
 彼女はそう言うが、忘れてしまったことを簡単に思い出す方法なんて、そんな都合のいいものがあるはずない。
「――本当に僕のせいだって、その2人の女の子たちは言ってるんですか」
「言ってるよ。それは何度も確認したことだから」
 息をつく間もなく、春菜さんはそう答えた。そう答えてしまった。
 そこで僕は彼女の話を整理する。
 まず6年前、この模造線路の周りに、僕を含め4人の男女、子どもたちがいた。そこに出くわした春菜さんは、僕だけが模造線路を知っている様子だったと言っている。
 仮にここまでの話が真実だとして――
「春菜さんは、なんで僕らのことを調べようとしたんですか。なぜ、ただ奇異な光景に出会った、それで終わりにしなかったんですか」
「……私の性分が、そうさせたのかな」
 彼女の表情は変わらない。けれど、曖昧な口ぶりだった。何か裏がある、直感的にそう思った。
「じゃあ、もうひとつ聞かせてください」
「うん、知ってることなら話してあげるよ。どうぞ」
「……結論、春菜さんは僕をどうしたいんですか。どうなればいいと思ってるんですか」
 少しの間があった。そして春菜さんは、僕と目を合わせることなく答える。
「――全てを思い出してほしいだけ」
 表面上は明るく生きていて、でも、その目は確かに色を失っていて、灰色の世界で生きている。彼女は僕とは違うと言っていたけれど、大きく違うとはどうしても思えなかった。
 たったそれだけの理由で……いや、そんな風に思えたからこそ、僕は彼女の言葉に応じようと思ったのだろう。
 ――いや、もしかすると、ただの自己防衛なのかもしれない、だけど――
「わかりました。思い出す努力をします」
「あれ?」
「あれ、ってなんですか」
「どうしようもない、って言われると思ってた」
 そうは言うが、彼女の声色に驚きは含まれていなかった。
「もちろん、今のままじゃどうしようもない、どうしようもできないですよ。ただ、その状況を変えようと努力をするだけです」
「ふーん。そっかそっか。そうなんだね」
 僕の決意に、あくまで大きなリアクションは示さない。それでも、何かを思案しているようではあった。
「……じゃあ、これ貸してあげる。絶対に誰にも見せないでね」
 リュックの中から春菜さんが取り出したのは分厚いファイルだった。それを僕の方へ渡してくる。
「これ、ここで見た子たちの情報を集めた資料。これをどう活用するかは倉耶くんに任せるよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「それじゃあ、今日は先に帰るから」
 そう言って、春菜さんは足早に獣道を下っていった。まるで何かを悟られまいとするように、逃げるように。
 僕が『努力をする』と決意を固めたとき、どう行動すべきかまでは考えきれていない、彼女はおそらくそれを見抜いていたのだろう。
 そこでこの資料である。
 僕は春菜さんに渡された資料に目を通すため、ファイルを開こうとしたが、目の前には気味の悪い模造線路。
 一旦帰路につこう。そこでゆっくり、現実と向き合えばいい。
 この資料に書かれているものが真実かどうかは、まだわからないけれど。

 

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